スポーツ

「素顔のゴッドハンド」大山倍達との濃密な日々(3)秘密の地下室に待っていた美女軍団「指名して連れ出していいぞ」

「今日はちょっと遠くに行こうか」

「どこですか」

「まあ、行けば分かるけど、ほとんどの日本人は入ったことがない所だよ」

 いつものように館長から電話を貰った私は西池袋の極真会館へ向かい、2階の館長室で館長と会った。

「行こうか」

 18時を過ぎた頃に1階に降りると、館長専用の白いメルセデスベンツが路地に停められていた。運転手は若い弟子で「あそこに行ってくれ」と館長が命じた。

 首都高速を走ったベンツは東京タワーのイルミネーションを見ながら、高速を降りて泉岳寺の近くの細い通りへ。そして民家のような目立たない建物の駐車場に入った。誰かの家なのかと思ったが、玄関から地下へと続く階段を下りると、いくつもの部屋があることが分かった。まるで旅館のようであり、部屋を開けるとチマチョゴリで着飾った若い美女たちが食卓の周りで迎えてくれた。

 看板など一切出ていないので、ここがレストランではないことは確かであるが、いったい何屋なのかは分からなかった。あとで館長から聞いたのは「KCIA(大韓民国中央情報部)が持っている迎賓施設だ」ということだった。

 朝鮮半島出身の館長が韓国に太いパイプを持っていることは私も知っていたが、まさかKCIAの施設にも入ることができるとは想像していなかった。韓国の大統領候補だった金大中を日本のホテルから拉致したのがKCIAだという知識があって、「こりゃあ、ヤバイところに来てしまった」と緊張したことを覚えている。

 館長は何度もここを訪れているらしく、顔なじみの美女たちに冗談を言って笑わせていた。

「飲んで下さい」

 隣に腰掛けたチマチョゴリの美女が、ビールやウイスキーを勧めてくる。テーブルの上には、数多くの銀色の皿に御馳走が盛られていた。残念ながら私の口には合わなかったものの、そんな素振りを見せることもできず、勧められた御馳走を口に運んでいた。

 どうやら館長は、この晩に誰かとここで会う予定になっているようだった。秘密裡に会うには絶好の場所である。もしかすると公安がどこかで監視しているかもしれないなぁ、と私は気が気ではなかった。

「チミ、気に入った娘はいるかな。指名したら連れ出して行ってもいいぞ」

 機嫌のいい館長が、私のことを美女達に説明している。どれを選んでいいのか目移りしてしまうほどだった。

「決まったか」

 館長がわざわざ私の隣に来て「早く決めなさい」と催促する。「分かりません」と言いたかったが、とても断る雰囲気ではなかった。「あの左から2番目の方にします」と言った。体格がよく、長い髪と笑った顔が素敵な美女だった。

「チミ、女を見る目は確かだな。あれはオレのこれだから」

 小指を立ててニヤリとしたのである。結局、連れ出すことはなく、館長をそこに残して、私はベンツで帰っていった。

(深山渓)

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