戦後、吉田茂を除きただ1人総理に返り咲いた男と、彼を支える寡黙な辣腕軍師。そんなふうに美談仕立てに報じられるほど、固い信頼で結ばれていたはずの安倍総理と菅官房長官の関係に劇的変化が起きていた。イケイケドンドンだった安倍政権に猛烈な逆風が吹き始めた今、2人の間に入った亀裂はもはや修復不能になっているというのだ──。
いわく「総理の懐刀」「平成の軍師」「陰の最高人事権者」、あるいは「野心を抱かぬ苦労人」‥‥。
こんな風評を持つ男の運命と素顔が今、大きく塗り替えられようとしている。ほかでもない、「内閣官房長官」として安倍晋三総理(59)の「女房役」を務める菅義偉(すがよしひで)氏(65)だ。
菅氏といえば、8年前、安倍氏を自民党総裁選に担ぎ出した立て役者。第1次安倍政権では総務大臣に抜擢されたが、安倍氏が体調不良で退陣を余儀なくされたあとも、安倍氏の再起のチャンスをうかがっては東奔西走し、第2次安倍政権でついに官房長官の座を掌中に収めた人物である。
「菅さんの愛読書は『三国志』。安倍さんにとって菅さんは諸葛孔明のような存在であり、安倍さんは第1次安倍政権でも菅さんをいきなり官房長官に起用しようとしたほどでした」
こう語るのは安倍総理側近の一人だが、実は最近、総理と菅氏のその蜜月関係に怪しい隙間風が吹き始めているというのだ。いったいどういうことか。
安倍総理と親しい自民党の有力中堅議員は「実は、『安全運転』とヤユされる政権運営方針を総理に飲ませたのは菅氏だった」として、こう指摘する。
「総理は自民党きってのタカ派。憲法改正をはじめ、靖国参拝、集団的自衛権行使容認など、ケリをつけたい問題は山ほどある。ところが、菅氏は『まずはアベノミクスに専心せよ』といさめて、安倍カラーをことごとく封印させてきた。そのフラストレーションが今、臨界点に達してきているんです」
例えば、靖国参拝を巡る総理と「軍師」の攻防戦。安倍総理は政権発足当初から「適切に判断する」と明言を避け続けていたが、「含みを持たせた一連の発言も菅氏への不満の表れだった」(前出・中堅議員)という。昨夏の終戦記念日に参拝を見送った際には、「安倍総理はついに靖国参拝を断念した」との憶測が流れたが、その後、事態は急変する。
昨年12月26日、その安倍総理が突如として参拝を敢行したのだ。官邸関係者が証言する。
「昨年の終戦記念日直前にも、官邸執務室で参拝を巡る総理と官房長官の話し合いが持たれた。菅氏の諫言を聞き入れて部屋を出てきた総理は、苦虫をかみ潰したかのような不機嫌で険しい表情だった、と聞いています。菅氏に対するそんな感情がついに爆発したんでしょう。10月の秋の例大祭での参拝まで見送って迎えた昨年暮れ、総理は菅氏に『政権発足から1年、もう待てない』旨を一方的に伝えて、電撃参拝に踏み切ってしまったんです」
その後、アメリカ政府から「失望した」との声が上がったのは周知のとおり。衛藤晟一総理補佐官が「アメリカの対応には失望した」と逆襲してみせたが、
「菅氏が衛藤氏の発言を即座に撤回させた背後には、1年で自分を裏切った総理への当てつけもあった」(前出・官邸関係者)