WBCでの中野拓夢のプレーを巡って、阪神・岡田彰布監督の慧眼ぶりが大きくクローズアップされている。
中野は1次リーグB組の4試合すべてに出場して7度出塁し、5得点を挙げた。自慢の足で早くも2盗塁を記録するなど、骨折した源田壮亮の穴を埋めているからではない。先の韓国戦(東京ドーム)では簡単な打球を捕球したまではよかったが、一塁へ悪送球。3点目を献上したプレーは「アレ」を狙うチームの正遊撃手としては物足りないことが明らかになったからだ。球界OBが言う。
「中野は遊撃手として、致命的に肩が弱い。そのため、深い当たりでは走者を殺せない。その守備力を見越して、岡田監督が今季から二塁へコンバートしたのは正解。さすが岡田監督だ、と評価しますよ」
阪神の取材に長年携わってきたテレビ局関係者も、
「WBCで、中野の遊撃での守備力に問題があったことが証明されたのは大きい。これでコンバートに懐疑的だった、口うるさい球団OBも黙るしかない」
阪神の場合、チームの指揮を執る監督の失敗の余波は、他球団とは比べものにはならない。昨季まで指揮を執った矢野燿大前監督がいい例だ。ある瞬間から、評論家として名前を連ねていた会社以外のマスコミは、手のひらを返したように敵に回る。また、現場復帰に色気を持つ球団OBによる、露骨な売り込み合戦も始まる。
今回、中野が12球団一の遊撃手といわれる源田と遜色のない、華麗で堅実な遊撃を披露すれば「なんでコンバートしたのか」との声が噴出しかねなかった。
昨季の阪神の守備率は、セ・リーグワーストの9割8分4厘。失策数86も最多だ。そのため今季、岡田監督は守備力向上を掲げ、レギュラー陣の守備位置を固定する方針を固めている。
だが、3月14日のDeNAとのオープン戦で、三塁の佐藤輝明が2失策を喫するなど、不安は拭えてはいない。中野を昨季までのように正遊撃として固定するのは、リスクが伴うのだ。
「岡田監督は多くを語りませんが、WBCでの中野の守備に『ホレ見たことか』と思っているでしょう」(前出・テレビ局関係者)
まだシーズンは始まっていない。「アレ」のために克服する課題は他にも残っている。
(阿部勝彦)