中国軍が尖閣諸島に上陸してくるとすれば、ポンコツ兵器を使うことはない。中国軍が繰り出す手法は、武装漁民の上陸ぐらいのものだ。古是氏が言う。
「武装漁民とは漁民に扮した海軍歩兵です。海軍歩兵は海兵隊に当たる部隊で、中国海軍に2個旅団存在しています。兵士は1万2000人ぐらいの小規模なもので、台湾上陸を想定して作られた部隊ですが、装備が整っていません。さらに、中国軍は実戦経験が78年の中越紛争以来なく、国際交流をほとんどしていない。旧ソ連との関係悪化から、共産圏の国々との合同演習もろくにしておらず、世界的に孤立した海兵隊など脅威でもありません」
前述の陸自西部方面普通科連隊の精鋭の前では敵とも言えない存在だという。
「実際に、昨年暮れには日本政府内で、中国軍が武装漁民を尖閣に上陸させる審議を行うという情報が流れました。結果的に審議は行われませんでした。これは中国軍が軽武装ぐらいで尖閣に上陸すれば、米軍と自衛隊に制圧される可能性が高いと踏んだためです。仮に中国軍が核戦争をも辞さない全面戦争を覚悟して攻めてきたとしても、陸・海・空の軍の統合運用という面で米軍と自衛隊にかなうわけがないと思われます」(古是氏)
一部報道では、中国の江蘇省から上海、福建省までの長い海岸線のレーダー網は非常に脆弱で、米軍だけでなく自衛隊の航空機でも防空網を突破できるとも報じられている。そうした状況下で、中国が日本に対して軍事行動を起こす可能性は高くはないだろう。
「しかし、中国が尖閣に対して一歩、引かなくてはいけない状況を作り出しておくことは重要なのです」(古是氏)
つまり、今回の自衛隊が「攻撃型兵器」を装備するということは、中国に対しての最大の抑止力になるのである。しかし、井上氏はこう話すのだ。
「中国との武力衝突なんて大したことではないのです。それ以上に問題なのは、中国軍が『3戦』の戦術を仕掛けてきていることです。3戦とは『輿論(よろん)戦』『心理戦』『法律戦』です。輿論戦とは情報戦です。心理戦はこちらの士気を低下させる作戦で、法律戦は国内法や国際法を利用して国際的支持を得ようとする作戦です。中国がデタラメな歴史問題をアピールして、国際的に日本のイメージを低下させて、中国に手出ししにくい状況を作っていることや日中友好の証しであるパンダを贈ることで、日本国内の中国のイメージをよくしようとしているのが、まさに『3戦』なのです。いわば、孫子の兵法の『戦わずして勝つ』という中国の戦術による攻撃に日本国民は常にさらされているのです。この戦いにも勝ち抜かねばならないのです」
安倍政権は中国軍の軍拡だけでなく、やっかいな戦術にも対応しようとしている。迷惑な“隣人”には願わくば“戦わずして負かす”という結果であってほしいものだ。