音楽家・坂本龍一が、71歳で死去した。「世界のサカモト」「教授」などの呼び名で愛された世界的ミュージシャンは、強烈な美意識に支えられていたことで知られる。
それを表すエピソードがある。東京芸術大学の大学院生時代のことだ。とある喫茶店のガラスケースに入った「ホコリだらけの食品サンプル」を破壊したのである。当時を知る音楽関係者が振り返る。
「朝まで飲んで、甲州街道あたりを酔っ払って歩いていたら、偶然に見つけた飲食店前に飾られたスパゲッティなどの食品サンプルがホコリだらけだった。その醜さがどうしても許せず、たまらずつい足が出たそうです。この時は器物損壊で警察に捕まったものの、不起訴になったと、後年、告白しています」
この他にも「ジャージを着ている人が嫌いで、昔よく遊んでいた友達がジャージを着たら、その瞬間に絶交した」などという話も。先の音楽関係者によれば、
「なんでも『ジャージはその人の生活感を完全に感じさせるもの』で『見せたくないのに強制的に見せられる』から嫌いなんだそうです。同じ理由から、学生時代に学生食堂で1人でご飯を食べている人を見ると苛立ったと、糸井重里氏との対談で話していました」
こうしたエピソードはまだまだある。2018年、ニューヨークの自宅近くにあったレストランが、味は素晴らしいものの「BGMがあまりにひどい」とシェフにメールして、自ら選曲を志願。その後、シェフと協力してプレイリストを作っている。
偉大なるミュージシャンは、強烈な個を持っていたのだ。合掌──。