早稲田大大学院で指導教員だった文芸評論家の渡部直己氏からセクシャルハラスメントを受けたとして、元院生で詩人として活動する深沢レナさんが渡部氏と早大に計660万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は4月6日、渡辺氏と早大に60万5000円の賠償を命じた。
深沢さんは2015年9月に大学院合格後、翌年4月に入学する前から聴講に通っていた。指導教員だった渡部氏からたびたび食事に誘われるようになり、深沢さんが仕方なく応じると、「卒業したら女として扱ってやる」「俺の女にしてやる」と告げられ、頭や肩、背中などに触れてくることもあったという。
修士論文の準備には指導教員が関与するため、深沢さんは「要求を拒めば、論文に影響するかも」と不安で精神的につらくなり、18年3月に退学。その後、大学のハラスメント防止窓口に被害を申し立てた。大学は同年7月に、教授によるハラスメント行為を認定したものの、懲戒処分ではなく、一般的な解任としている。
「絶望的に安い賠償金で驚きました。原告は大学院に合格したものの中退していますが、その大学院の費用は、この賠償金には含まれていないようです」
こう言って嘆息するのは、司法担当デスクである。続けて、
「こんなに安いなら、訴訟を起こすだけ無駄だと思ってしまう被害者が出てきますよ。裁判所はもっと改革しなければ、被害者を救うことができなくなる。愛媛の農業アイドル事件では、名誉棄損で芸能プロダクションに対し、2月末の判決で計550万円という日本の裁判では破格な賠償金支払い判決が下されましたが、それでも業務がストップした損害金には足りないとして、プロダクション側は控訴しました。アメリカの裁判と比較して、名誉棄損やハラスメントに対する賠償金が低いのは、なんとかしなければならないでしょう」
660万円の賠償請求に対し、たった1割未満。裁判所が「人格権を侵害した」と法律違反性を認定したにもかかわらず、である。たった55万円の賠償金は安すぎる。
「弁護士費用を払えば、まったく手元に残らないでしょうね。裁判を起こしても被害者が泣きを見るだけで、割に合いません」(法曹関係者)
賠償金の異常な安さが、日本にハラスメントがはびこる原因のひとつではないか。アメリカ並みにとは言わないが、もっと高額の賠償額を命じるケースが出てくれば抑止力になるし、組織も防止対策を徹底するだろう。