北郷 ツービートの初期の頃について、殿はよく「(名古屋の)大須演芸場でウケた記憶がねえなあ」と苦労を話しています。
きよし 大須演芸場と(浅草の)木馬館ね。安来節の前に漫才やるんだから。しかも客席に、年寄りが2人ぐらいしかいねえんだよ。
北郷 ハハハ、そこでブラック漫才を?
きよし そうそう。2人しかいねえから、見られると恥ずかしくなっちゃって。
北郷 目が合っちゃって(笑)。殿が言ってましたけど、「2人いて1人はトイレに逃げちゃった」とか。
きよし そうそう。もう1人残ったやつも、いたたまれなくなって出てっちゃうんだよ。客が戻ってくるまで舞台で待ってたら、客がドアの隙間からのぞいて入ってこないんだから(笑)。
北郷 最高ですね(笑)。あと、殿は「キャバレーの営業が苦手だった」ともよくこぼしています。「俺、行かなかったこと何度もあった」って。
きよし 来たかと思えば、ベロベロに酔っ払って来ることも多かったな。ある時なんか、時間になっても来ないと思ったら、やっと向こうからベロベロで転げそうになってやって来るんだ。
北郷 またですか(笑)。
きよし それで舞台には出たけど、誰も聞きゃしないんだよ。そしたら相方がマイク持って、「こら、ブス!聞け、この野郎!」って(笑)。
北郷 遅れて来て、開き直って(笑)。
きよし もう、収拾がつかない。それで、いつも俺はポケットにマジックのネタを用意してたから、相方に「しゃべんなくていいから」ってマジックを始めたんだけど、やっぱり誰も見ないんだよ。そしたら相方がまた出てきて、「てめえ、この野郎! うちの相方がマジックやるんだから見ろ、この野郎!」って(笑)。
北郷 お前のせいだって(笑)。やはり、お客さんがお酒を飲む目的で来ている舞台は大変ですよね。
きよし そうね。石和のストリップ劇場も思い出すな。1回目、2回目の出番ではガラガラだったのに3回目、4回目は入りきれないぐらい、舞台の袖まで入ってんだ。お客さんは宴会終わってから来るからね。
北郷 もう飲んでるわけですね。
きよし そう。お客は「お前ら観に来てんじゃねえ!早く裸見せろ!」となる。でも相方は「これやんなきゃ金もらえね~んだ、この野郎!」って(笑)。
北郷 そんなこと言いだすんだ(笑)。
きよし それでもギャースカギャースカ言われると、次に出てくる踊り子さんに、「あそこのお客に見せないほうがいいよ」なんて言う。そうするとお客が静かになっちゃうのよ(笑)。
北郷 キャバレーでチャンバラコントをやった際には、お客に竹刀が当たって大ゲンカになったこともあったそうですね。
きよし そうそう。やることがいつも、ひっちゃかめっちゃか。でも絶対、そういうのを自分の実にしてるんだよ。ああいう芸人はもう出てこないと思う。貴重な人材だよね。
◆プロフィール ビートきよし(64)72年、相方・ビートたけしと「ツービート」を結成。空前の漫才ブームを牽引した。長らくコンビでの活動を縮小していたが、今年4月に「オフィス北野」入りを果たしたため、完全復活も期待されている。
◆プロフィール アル北郷(42)95年、殿に弟子入り。97年より7年間、付き人を務めた。現在は「新・情報7days ニュースキャスター」(TBS系)等でブレーンとして活躍。単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」(徳間書店刊)も好評発売中。