斎藤次郎元大蔵事務次官が「文藝春秋」5月号で「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)に反論していることが、永田町と霞が関で大きな話題となっている。斎藤氏は「最後の大物次官」と呼ばれたように、霞が関、なかんずく大蔵(財務)省の象徴的な存在で、長らく表舞台で話すことはない、いわば「伝説の人」だったからだ。
斎藤氏は退官して約30年、メディアに出ることを一貫して避けてきた。87歳になる斎藤氏は〈恐らく、最初で最後のインタビューになるかと思います(笑)〉と語っている。インタビューに答えるきっかけとなったのが「安倍晋三回顧録」だった。斎藤氏はその動機を、次のように語っている。
〈私が危惧しているのは、財務省の一連の不祥事や「安倍晋三回顧録」の内容を受けて、「財務省悪玉論」が世間に広がっていくことです〉
安倍氏は回顧録で〈彼ら(財務省)は省益のためなら政権を倒すことも辞さない〉などと、財務省への不信感を露わにした。斎藤氏はこれに反論する。
〈増税を強く訴えれば国民に叩かれるわけですから、「省損」になることのほうが多い。国のために一生懸命働いているのに、それを「省益」と一言でバッサリ言われてしまっては…〉
もっとも、財務官僚が「文藝春秋」を利用するのは、これが初めてではない。斎藤氏の後輩の次官にあたる矢野康治氏も同誌2021年11月号で「財務次官モノ申す、『このままでは国家財政は破綻する』」と題する論文で、財政楽観論を批判した。
斎藤氏や矢野氏は財政再建派として知られるが、同じ財務省でもリフレ派。安倍元首相のブレーンだった嘉悦大学教授・高橋洋一氏が自身のYouTubeチャンネルで明かしたところによると、生前の安倍氏は矢野論文に対し、高橋氏が「文藝春秋」で反論すればいい、と語っていたという。だが「文藝春秋」が高橋論文を掲載することはなかった。
〈財務省のロジックは資産を見ない。なぜ見ないかというと自分が天下りできなくなるから。それで借金だけみさせておいて、返すために増税という。私は20年以降抵抗して3回殺された。消費税を社会福祉目的税にするとの言い出しっぺはこの人(斎藤氏)。小沢一郎(立憲民主党)と組んだ。消費税を社会福祉目的税としている国はない。(斎藤氏を)すごい人と持ち上げている文藝春秋も同じ穴のムジナ〉
高橋氏はそう酷評するのだった。