世界で最も過酷で危険と言われる障害レース「グランドナショナル」が、今年もイギリスのリバプール郊外にあるエントリー競馬場で行われた。
ところが、30の障害を飛び越えて7000メートル近くを走破しなければならないこの名物レースの開始直前、「YOU BET THEY DIE(あなたが賭ける。馬は死ぬ)」のプラカードを掲げて参集した動物愛護団体の活動家が、次々とコース内に乱入。レースのスタート時間がおよそ15分遅れたほか、活動家118人が逮捕される騒動に発展した。
レースは9歳騙馬のコーラックランブラーが制したが、出走馬39頭のうち完走できたのはわずか17頭で、負傷した1頭が予後不良で安楽死処分となった。イギリスメディアは2000年以降、同レースで16頭が処分されていると報じているほか、動物愛護団体も「今年、イギリスだけでも49頭が競馬で死んでいる」と指摘している。
そんな中、イギリスで起きた乱入騒動の波紋は、日本の競馬界にも広がり始めている。JRA(日本中央競馬会)の内部事情に詳しい競馬関係者は、
「グランドナショナルのような過酷で危険なレースは、日本では行われていません。ただし、レース中の骨折などで予後不良と判断された競走馬が処分されている現実は、日本とて同じです。さらに言えば、例えばデビューから1勝もできなかった馬、競走成績が下がって惨敗が続いている馬、あるいはデビューのチャンスすらなかった馬など、少なからぬ競走馬が毎年、処分されているという、偽らざる現実もあるのです」
そのためJRAは今、イギリスでの乱入事件を契機に、このような現実が日本国内で問題視されはしまいかと、秘かに神経を尖らせているといい、
「そもそも、競馬は優勝劣敗、すなわち『強い馬しか生き残れない』という、本質的な宿命から逃れることはできません。したがって、これを是とするか非とするかは、競馬の発祥に始まる長い歴史を踏まえた、多様で慎重な議論が必要になってくると、私自身は考えています」(前出・競馬関係者)
競馬に関する名著を数多く手がけた寺山修司が生きていたら、今回の乱入騒動とその波紋をどんな言葉で論評しただろうか。