今は「今日は能見が投げるから勝てる」という雰囲気もベンチに感じられません。それも自身が積み重ねてしまった負の歴史があるからです。昨季の優勝争いの時にエース対決で勝てない姿、開幕戦で炎上する姿、弱い能見を見せてきたのです。エースとしての、ベンチや野手との信頼関係を再構築するのは簡単なことではありません。もちろん、勝ち続けることが大切ですが、ここ一番の勝利、他球団とのエース対決を制することが必要です。そして何より、もう一度、巨人打線をピシャリと抑えることが重要なのです。
8月12日からの巨人3連戦(東京D)は、12年9月から14カード連続で巨人戦に登板していた能見をローテから外しました。メッセンジャー、岩田、藤浪と、現状で最も信頼できる3人を送り込んだのです。能見のその時点での今季の巨人戦は1勝4敗、防御率4・79。巨人キラーと呼ばれたサウスポーにしては寂しすぎる数字です。しかし、巨人に勝てる能見が復活しないことには、阪神の優勝は厳しくなります。
逃げる巨人も、新エースの称号を得たはずの菅野が最もチームが苦しい8月に故障で戦列を外れました。優勝争いから抜け出せない大きな要因です。
そして、広島もまた、エースの前田が苦しんでいます。7月後半から4度続けて、巨人、阪神との直接対決に投げましたが、一つも勝てませんでした。勝てないイライラもあったのでしょう。8月15日の巨人戦(マツダ)では、雨でぬかるむマウンドに集中力を欠き、不満を態度で表してしまいました。
あの姿が今年の「勝てない前田」を象徴しているように感じました。個人の野球が前に出すぎて、マウンドで孤立しているように映ります。チームを優勝させてこそのエースです。その試合、巨人・内海が環境の悪い中で平然と投げ抜く姿が印象的でした。前田が目指すメジャーは、もっと過酷な世界です。そこで結果を残そうと思うのなら、もっと自分を磨く必要があります。
野手はエースの背中を見て守っています。エースと呼ばれる男は前を向いて打者に立ち向かいながらも、背中で語りかけないといけません。今でも忘れられないのが小林繁さんの背中です。特にあの1年。江川とのトレードで移籍してきた79年のマウンドは、熱さがほとばしっていました。その姿に、野手も絶対に勝たせたいと思ったのです。巨人戦8連勝を含む22勝をあげましたが、躍動感あふれるフォームなど、ボールに気持ちが乗り移るのが守っていても感じられました。
ペナントレース終盤。能見、前田、菅野、彼らのエースとしての意地が優勝争いの行方を左右します。
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