で、続いては、殿のバイト話の中で、わたくし自身、最もよく聞かされた、大変バイト料が高かった、成田空港でのお話──。
19歳で初めて家を飛び出し、一人暮らしを始めた殿は、当時の家賃8000円が払えず、すぐに半年程溜め込んでしまい途方に暮れていたそうなのですが、実は、その溜め込んだ家賃をお母さんのさきさんが、殿に内緒で払ってくれていたそうで、殿は、その事実を大家さんから聞かされると、“家を出たけど、結局はお母さんからは逃げられない不甲斐ない自分”に気づき、いたく落ち込んだそうです。で、とにかくお金がないと始まらないということで、当時、とにかくキツいがバイト料が破格によかった、成田空港でのバイトに飛び込みました。
「成田のエア・グランドサービスって言ってよ、飛行機に積む荷物の積み下ろしをやるバイトなんだけど、これがえらいキツいんだ。夏なんて1日で4キロくらい体重が簡単に落ちてよ、倒れる奴も結構いたんだよ。だけどバイト料がいいから、大学の空手部や柔道部なんかの1年生なんかが、部費を稼ぎに集まってきてよ。そいつらがまーみんなガラが悪くて、いたるところでケンカが始まって大変だったよ」
そのキツいお仕事は24時間体制で、「デイ」「ナイト1」「ナイト2」と、3交代のシフトで回していて、朝昼晩まかない食が出て、1週間泊まり込みで働くため、短期間で金を貯めるには最適なバイトだったそうです。で、この時も、のちに芥川賞を受賞される、中上健次さんも同じ時期に働いていたそうな。そんなバイトの回想を連弾で──。
「ある日、成田にアラブだかどっかの石油王が日本にやってきてよ。そいつがバイトの俺たちに1人1000ドルずつチップを配りだしたんだよ。あの頃1ドルがまだ360円の時代だからな。もう成田中がパニックになってよ、えらい騒ぎだったんだから‥‥」
「1度なんてオーストラリアから届いたカンガルーが逃げ出して、みんなでデカい網持って滑走路を追っかけ回してよ。中にはカンガルーからパンチもらう奴まで出てきて大変だったよ‥‥」
「あとあれだよ。あの頃、テレビで大人気だった司会者が結婚して、新婚旅行で成田に来たんだよ。それで、そいつの奥さんの荷物を俺たちが飛行機に積んだんだけどよ。荷物をベルトコンベアに乗せる時、カバンが壊れて中に入ってた派手な下着が飛び出てきて、『あいつの奥さんはこんなパンツ履いてるのか! スケベな野郎だ!!』なんて妙に興奮したりしてよ‥‥」
しかし、いつの時代であっても、面白エピソードってやつを確実に持っている殿に、今更ながら感心してしまうわたくしなのです。