「これは私の勝手な役作りなんですけど…今回は10キロほど痩せようかなと思っています。今もう、4キロ痩せました。ただ、1日1食はちゃんとおいしいものを食べようと思ってます」
この発言の主は「浅見光彦シリーズ」で初代・浅見を演じ、人気を博した榎木孝明。5月9日に大阪市内で、舞台「泣いたらあかん」の記者会見に共演者の藤山直美らと出席した際のものである。
ベテランの芸能記者らの脳裏をよぎったのは、かつて大きな話題になった「30日間、食事をいっさい口にせず、水分のみで過ごす『不食』経験」だ。
2015年6月17日、榎木による「不食」告白会見が開かれた。当時、榎木は59歳。彼が不食生活に挑んだのは、同年5月20日からの約1カ月間だ。医師の管理のもと、病院の一室に定点カメラを設置し、そこに寝泊まりしながら、日々を「不食ノート」としてFacebookにアップ。それをスポーツ紙が取り上げたことで、榎木のもとに取材が殺到し、急きょ記者会見が開かれたというわけである。
「正直、餓死しなかったのが不思議ですよ」
記者会見映像で榎木の様子を確認した医療関係者は、筆者の取材にそう語ったものだ。
過去にも役作りにため、10日間の絶食で16キロダイエットを敢行したという榎木は、
「その時、痩せ細りはしますが、元気は落ちなかった。しかも、逆に内臓も健康になったと感じたので、状況や環境が整ったら30日間の不食をやってみようと思ったことがきっかけです」
ただ、公に宣伝するつもりはなく、
「マスコミの方からたくさん問い合わせをいただき、『そんなに興味ある?』と私の方が驚きました」
と苦笑い。30日の間には排便が3回あり、
「4、5日目に宿便と思われる黒い便が。20日目ごろには腸壁と呼ばれるものが出ました。よく腸が動き、オナラが出ます。お風呂でかいだら無臭でした」
空腹感は全くなく、満腹に近い腹八分状態が1カ月間、続いたという。
とはいえ、医学的にみれば無謀とも思える絶食に、前出の医療関係者は、
「何も食べなければ糖質を補充できないため、一時的には脂肪が糖に代わります。それが尽きれば、あらゆる臓腑の機能が低下。最後は衰弱死するしかない。彼の場合も、あと10日で危険な状態になっていた可能性は否定できないでしょうね」
会見ではそんな否定的な声を知ってか知らずか、
「私は30日間平気で、悪いことが起きなかった、というだけ。そもそも不食を人に勧めてもいませんし、決して同じマネはしないで下さい。私はどのオカルトにも宗教にも加担していません。強いて言えば、榎木教でしょうか」
ただし、家族の反応はといえば、
「妻からは叱られ、子供からは無視されている」
と散々だったようで、そこは榎木教の教祖も形無しといったところだった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。