山口百恵や薬師丸ひろ子を持ち出すまでもなく、ある時代を牽引した女優たちはいずれも、作品に登場しただけで輝きを放つ十代の時期があった。近年では「海街diary」(15年)や「ちはやふる」二部作(16・18年)で颯爽とスクリーンに登場した広瀬すずが、そのいい例だろう。
広瀬は年を追うごとに輝きを増し、今や国民的女優となった。なにより素晴らしいのは、演じる間口が広く、作品を重ねるごとに演技力が高まっていること。見た目の可愛らしさからは想像できないような、強さを感じるのだ。
その力強さをもたらすきっかけとなったのは、言うまでもなく李相日監督作品「怒り」(16年)での、小宮山泉役。泉は作中、米兵2人に乱暴されてしまうのだが、その強烈な体験を引きずることなく誰の助けも求めずに、自らの足で立ち上がっていく。その姿に圧倒されたものだ。
広瀬自身、当時の限界を突破したハードな役を演じたことで、芝居や役に対する考えが変わったという。以降、受け取った役のエモーション(心が揺れ動くような強い感情)を基盤にして表現するようにしているそうだ。
そんな彼女の主演最新作「水は海に向かって流れる」(前田哲監督)が、6月9日より全国ロードショーとなるる。田島列島の同名人気漫画の映画化で、恋することを放棄して淡々と生きている女性が、10歳下の男子高校生と出会ったことで新たなる人生を歩もうとするストーリーだ。
5人の男女が共同生活を送る、シェアハウスが舞台。広瀬は紅一点で、常に不機嫌なOLを演じるが、鮮やかなブルーのワンピースを着た彼女が海に入るシーンは、青い空と海と相まって、改めてその美しさを思い知らされるのだ。
まだ24歳の広瀬が今後、どんな大女優に変貌を遂げるのか、実に楽しみである。
(若月祐二/映画ライター)