海を渡ったドクターKの奪三振ショーに、全米がスタンディングオベーション。二刀流侍がWBC優勝を決めたウイニングショットで並みいる強打者をへっぴり腰にさせれば、かつての育成の星が目の前からボールを蒸発させる“怪奇現象”を武器に空振りを量産。日本が世界に誇る、両エースの変化球はどうやったら攻略できるのか──。
フリスビーさながら、大きく平行に横曲がりするスライダー。やがて特別の意味を込めて「スイーパー」と呼ばれるようになり、メジャーリーグに一大ムーブメントを巻き起こしている。
そんな魔球を代名詞に快刀乱麻の投球を続けるのがエンゼルスの大谷翔平(28)だ。大リーグ評論家の友成那智氏が解説する。
「WBCの決勝で、同僚のトラウト(31)から空振り三振を奪った変化球です。昨シーズンの中頃から多投していて、今季の投球割合は全体の5割前後を占めている。これはフォーシームの26%を大きく上回る数字です。中でも右打者に有効で、逆方向に曲がるツーシームとのコンビネーションは効果抜群。追い込むたびにアウトコースからボールゾーンに曲がる変化で空振りを誘います。今季の奪三振数が96でア・リーグ2位にランクイン(6月9日現在、以下同)しているのもうなずけますね」
今季からMLBが公式認定した新球種。特筆すべきはその変化量とスピードだろう。元エンゼルス日本担当スカウトの角盈男氏が後を引き取る。
「ヤクルトの伊藤智仁コーチが現役時代に投げていた高速スライダーと重なります。130キロ台半ばから後半の球速帯で真横に大きく曲がる点が類似していますよね。大谷の投げる横変化は40~50センチの範囲ですが、本来なら、ここまでの変化量になると球速帯は110~120キロ台まで減速するもの。それなのに130キロ台半ばの球速帯で曲げてしまうから恐ろしいんですよ。右打者の想定よりも大きく曲がるだけに、バットの上っ面をかすらせたフライボールも自然と増えることになります」
もちろん、対左打者にも有効活用されており、
「外角のボールゾーンからストライクゾーンギリギリまで曲げる『バックドア』が効果的です。左打者の意表を突いてストライクカウントを稼ぐのみならず、インコースのヒザ元に曲げるカーブ系のスライダーを投げる前の布石にもなります。アウトコースに意識を向けられているせいでわずかながら反応が遅れてしまう。バットに当てても自打球になるケースが多い」(友成氏)
魔球の効果は数字にもはっきりと表れている。今季の大谷は先発ローテーションの柱として5勝2敗。奪三振率もさることながら被打率はア・リーグトップの1割7分5厘を記録。果たして、一流のメジャーリーガーをきりきり舞いにさせる“変化球投手”を攻略する術はあるのだろうか。