〈警察が動かないのならこちらで動くしかありません!〉
6月22日付のブログで憤りを露わにしたのは、かつて玉海力(最高位:東前頭8枚目)の四股名で活躍、引退後は飲食店経営者に転身した河邉幸夫氏(56)。銀座の店舗に出没した“無銭飲食男”の画像公開に踏み切った経緯とは。
まずは河邉氏のブログをもとに経緯を振り返ろう。ここで取り上げる迷惑客をAとする。Aが東京・銀座にある「ちゃんこ玉海力 銀座店」に1人で来店したのは5月13日の21時過ぎ。ビールやちゃんこ鍋、焼鳥などを注文し、ラストオーダーの時間を過ぎた頃にスタッフが会計の伝票を持っていくと、Aは突然、「異物混入」を訴え始めた。だが、テーブルに残された料理を見ても異物は確認できず、通報を受けた警察官が到着しても、「お前らが異物を探せ」などと理不尽な主張を繰り返すばかり。
〈おもむろに携帯電話を取りだし、どこかへ電話を掛けるふりをして独り喋りを始める〉(ブログより)
こんな奇行に出たかと思えば、トイレに立てこもったり、日付が替わっても、不毛なやり取りは続き、河邉氏は警察官からこんな提案を受ける。
「無銭飲食だと手続きやらで時間かかってしまうので、保護でどうですか?」
河邉氏はこれを渋々了承し、Aは簀巻きにされてパトカーで署に連行された。しかし、翌日になって釈放されていたことが判明。その後、被害届を出すも受理されず、Aに代金を請求しようにも、警察が身元照会に応じないため、泣き寝入り状態となっていた。
そこで河邉氏が冒頭のメッセージとともに、防犯カメラが捉えたAの動画や画像、音声データの公開に踏み切ったというわけだ。
迷惑客の対応にあたった子息で店長の河邉佑太郎氏に話を聞くと、きっぱりと「異物混入」を否定する。
「Aは『料理に髪の毛が入っていた』と主張していましたが、まったくのデタラメで、最初に来た警察官もそれを確認しています。その後、彼は2回もトイレに逃げ込んでいるのですが、そこで誰かしらの髪の毛を調達して料理に入れたのではないか。後から来た警察官は、それを見せられて丸め込まれていた印象です」
佑太郎氏は今も後悔の念に苛まれている。
「警察からは、その日に立件するには、現場検証などで朝までかかると言われました。私はよくても、疲労困憊のスタッフを早く帰してあげたかった。立件は後日でも可能だと聞いていたのに、『Aは支払えるだけのお金を持っていた』という理由で、おとがめなしというのは納得できません」
無銭飲食はれっきとした犯罪行為だ。
「最初から料金を支払うつもりがないのに飲食店で料理を注文した場合、刑法246条1項に『人を欺いて財物を交付させた』とあるように、1項詐欺罪が適用されると考えられます」
こう語るのは弁護士法人ATBの藤吉修崇弁護士。今回のケースについては「1項詐欺を立証するのは容易ではない」として、このような見解を示す。
「当初は支払う気持ちはあっても、自分の髪の毛を入れるなど、虚偽の苦情を申し入れて支払い義務から逃れようとした場合は、2項詐欺に該当します。とはいえ、それが虚偽であるかどうかを客観的に証明するのは難しい。男性に前科・前歴はあるか否か。また、同様の被害届が別の飲食店から出されていないか。こういった点も調べたうえで、保護という措置にとどめたのではないでしょうか」
なお、Aが踏み倒した飲食代は1万710円だが、佑太郎氏はそれ以上の損害を主張する。
「警察官がいる前で、私も社長(父親)もさんざん罵倒されましたよ。『元力士だから頭が弱いんだな』とか『力士の息子だからバカに育つ』とか。でも、そんなことはいいんです。我慢できないのは、スタッフが今も怯えながら働いているということ。この業界に希望を持って入ってきた若い社員やアルバイトが、また変なクレーマーが来ないかと、ビクビクしているのがわかるんです。飲食業界全体のためにも、彼には罪を償ってほしい」
逃げ得を許していいものか!