独裁者が最も恐れているのは「暗殺」である。この点は「21世紀のヒトラー」と言われる、ロシアのプーチン大統領とて例外ではない。
本連載では、暗殺者の影に怯える独裁者プーチンの「異常行動」を、プロファイルの形で炙り出していく。第1回目は、大統領執務室の「偽装配置」だ。
周知のように、モスクワにあるクレムリン(ロシア大統領府)の地下には、ミサイル攻撃にも耐えられる頑強な大統領執務室が存在する。だが、そのクレムリンと全く同じ大統領執務室が、ロシア全土に偽装配置されていることは、ほとんど知られていない。
この偽装配置については、FSO(ロシア連邦警護庁)に13年間勤務した元情報将校グレブ・カラクロフ氏の証言がある。カラクロフ氏は昨年10月、プーチンに同行してカザフスタンを訪れた際、妻子とともにトルコのイスタンブールに亡命した人物。その後、ロシアの犯罪活動を追跡している調査機関に対し、次のように語っている。
「大統領執務室の偽装配置は、命が狙われるのを防ぐための策略でもあり、外国の諜報機関を欺くための策略でもある。ある時、ソチにいるはずのプーチンが、モスクワ郊外のノボオガリョボで会合を開いている様子が、国営テレビで流れたことがあった。FSOの同僚に確認したところ、プーチンはまだソチにいることがわかった」
このカラクロフ氏の証言も含めた内部情報を総合すると、大統領執務室の偽装配置の概略は以下のようになる。
プーチンは出身地のサンクトペテルブルクをはじめ、ソチ、バルダイ、ノボオガリョボなどにある秘密の別荘の地下に、大統領執務室を偽装配置している。間取り、調度品、デザインなど、全てがクレムリンの執務室と同一であり、プーチンは偽装執務室があるどの場所にいても、クレムリンで執務をしているように見せかけることができる——。
「逆に言えば、偽装配置はプーチンがいかに『暗殺』に怯えているかの証左でもある。世界広しといえども、これほどまでに異常な警戒を示す独裁者は見当たりません」
プーチンの動静に詳しい国際政治アナリストは、そう話すのだった。
(つづく)