以上が反乱の概要だというのだ。当局筋は、こう続けた。
「この事態が指し示しているのは、プーチン大統領は誰を選ぶか決められない、ガバナンスが効かせられないということ。この優柔不断さが今後も続くなら、ウクライナ問題は泥沼化するだろう。しかも、領土欲を剥き出しにするような提言が側近から上がれば、中国との連携を視野に日本にも戦端を広げるような暴挙も容認しかねない。ロシアは今、非常に危険だ」
プーチン大統領の決断力のなさと側近たちの肥大化を警告しているわけである。だが、これとはまったく異なる背筋が寒くなるような分析をしているのが、もうひとつの「壮大なる芝居」だ。
「端的に言えば、プーチン大統領は実はしっかりしており、隣国のベラルーシをカモフラージュとして利用し、プリゴジンを飛び道具にしようとしている。そのための大がかりな芝居だとの見方もCIAはしている」
同筋はそう語り、プーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領との関係は複雑で一筋縄ではいかないものの、現時点では友好関係にあると解説した。
「ルカシェンコ大統領はプーチン大統領を後ろ盾にすることで今、地位を保っている。20年の大統領選で不正疑惑が浮上し、退陣を求める抗議デモが拡大した際、プーチン大統領がベラルーシに介入する姿勢を見せ、デモを鎮圧したのを見ても明らかだ」
その上で、核兵器の配備も友好関係の延長線上のことだとした。また、ウクライナ侵攻への協力についても言及。22年2月、ロシア軍とベラルーシ軍は共同軍事演習を実施したが、その後、ロシア軍がベラルーシに駐留し続け、同月24日、その地から国境を越えてウクライナに侵攻したことなど、具体的な事例も挙げた。そして、こう続けた。
「信頼できる親密な関係になければ、核を渡したりしない。特殊部隊から成る精鋭たちも同様。CIAは、こうした事象を踏まえ、こんな分析をしている。ロシアに楯突き、追放されたと見られているプリゴジンらがウクライナに核を撃ち込む。表向きはロシアの仕業ではないとする『核攻撃』に関わる極秘計画が進行中なのではないかと。プリゴジンが一度、ロシアに戻ったのは、それを前提とした条件闘争のためとみられている」
CIAは「ワグネル」が解散しなかった点にも着目し、今回の件がプリゴジン氏の国防相や参謀総長への不満を契機に、それを利用して仕組まれた「壮大なる芝居」の可能性が高いと示したのである。そして、こう付言した。
「こうした一見わかりにくい緻密な策謀はロシアの十八番であり、対日本でも使われかねない。プリゴジンの代わりが金正恩なのかもしれないし、他の用意があるのかもしれない。いずれにせよ、不気味な国だ。CIAの警告は真摯に受け止めるべきだろう」
陰謀に長けたロシアの動向が気になるところだ。
時任兼作(ジャーナリスト)