ギャンブル場で時折見かけるのが「3匹のおっさん」だ。2人でなく3人だと話が弾むのだろうか。
5年前に豊橋競輪に出かけた際に、いかにも地元の人という3老人に出くわした。食べ物の話になって、何がいいかを聞くと、渥美半島の突端にある伊良湖岬の「大あさりを食べんな」と言う。
翌日、1時間かけて伊良湖岬に車を走らせ、はまぐりよりも大きい大あさりに舌鼓を打つ。「3匹のおっさん」に感謝だった。
渥美半島は三河湾に面しているが、岬の向こうは伊勢湾で、あさりではなく天然のはまぐりが獲れることで知られる。はまぐりも食べたい。名古屋競馬場の場所を調べながら、宿泊するならはまぐりの産地、桑名しかないということで、名古屋旅打ちはスタートした。
名古屋競馬に行くことを、昨年3月までは「どんこに行く」と言っていたそうだ。1949年に開場した名古屋競馬場は場所にちなみ、別名「どんこ競馬場」、通称「どんこ」と地元の人や古いファンは言っていた。どんこは「土古」と書く。「明日はどんこに行かにゃ」だ。
そのどんこが名古屋近郊の弥富市にある弥富トレーニングセンターに移され、新しい馬場と、コンパクトでモダンな建物へと生まれ変わった。ナイター競馬も開催されるようになった。
どんこは名古屋市内からあおなみ線金城ふ頭行きに乗って6駅目。名古屋競馬場前駅まで13分(駅名は港北駅に改称)と、市内から近距離だった。弥富に移ってからは、各所から無料バスが出ている。名古屋駅の名鉄バスセンターからの便は片道40分。ファンにしてみれば「遠くなった」が実感だろう。
宿泊する場合、名古屋ならレース終了後、40分かけて戻ることになるが、旅打ちの場合は都会より小都市、寂れた街がいい。それならやはり、はまぐりがある桑名はベストな選択である。
名古屋から桑名までは、JRか近鉄線で20分程度。桑名駅から名古屋競馬場までは揖斐川、長良川、木曽川を渡って、車で約20分。中部、東海地区の3大河川を渡るだけでも、桑名までやってきた甲斐があるというものだ。
車を走らせると、どの川も想像以上に幅広で悠然としている。揖斐川と長良川は隣り合わせで、2つの川をまたぐ橋が架かっているが、その揖斐長良大橋の長さは1キロ以上あるらしい。とにかく雄大。旅気分!
8月10日、名古屋競馬は第10回3日目。到着した頃には15時を回っていた。この日は台風7号の影響で、風速5メートル以上の強風が吹き荒れ、砂ぼこりが馬場の上空を舞っている。初めて見る馬場で、しかも強風。難しい競馬になりそうだ。「こりゃあ、いかんで」と。
どんこ時代は1周1100メートルの右回り、直線は194メートルと、日本一の短さだった。直線が短い馬場特有の、4コーナーまでハナを切っていた馬が逃げ切ることが多かったという。新馬場になって1周は1180メートルの右回り、直線部分はゴールまで240メートルだ。
比較すると4コーナーからゴールまでの距離は約46メートル延びただけだが、コース設計が大きく変わったことで、決まり手も変わった。新旧の違いを地元ファンに聞いてみると「どんこからここに移って先行、逃げ切りが少なくなった」と言う。
場内をウロウロし、3R、4Rとも馬券はドボン。総合受付横の階段を上がったところにある、小さなレストランに落ち着いた。ナイターの旅打ちは、昼はサンドイッチ程度が多いので、なにはともあれ、メシにありつきたい。入り口付近のキッチンカー以外では飲食店はここしかなく、吟味の末に、かき揚げきしめん(800円)と豚串・海老・ウズラの串カツミックス(500円)を。ザッツ名古屋のランチとなった。
(峯田淳/コラムニスト)