スーパーでも見かけるワタリガニの旬はオスとメスとで違うが、オスはだいたい7月から11月。この時期のオスは最も身詰まりがよく、身の甘さも抜群だとされる。一方、メスの旬は11月から4月までの間で、おすすめなのが内子(卵)だ。だが一見、内子に見えるものの、甲殻類をターゲットに寄生するフジツボの仲間「フクロムシ」の場合があることをご存じだろうか。
フクロムシは甲殻類の「根頭上目」というグループに分類される、フジツボ、カメノテなどの親戚的な甲殻類だ。幼生の頃は甲殻類らしく、エビやカニのそれに近い形をしているのだが、その後、カニに寄生すると、とんでもない大変身を遂げるのだ。海洋生物に詳しいジャーナリストが解説する。
「フクロムシは世界に300ほどの種類がいる、カニやヤドカリ、シャコなどに寄生します。オス、メスを問わず寄生しますが、ターゲットに近づくと針を刺し、自分の細胞を相手の体に注入する。と同時に、自分の体を消滅させるのです。その後、相手の体内に根のようなものを張り巡らせ、宿主の栄養を吸収。カニの場合は、お腹の辺りに生殖器官である袋を露出させることになりますが、寄生されたオスは性腺を破壊されている。簡単に言えば、強制的に性転換させられている状態なんです」
つまり、フクロムシにより精巣を破壊されたオスは、雄性ホルモンを分泌できなくなり、さらにお腹が大きく、見た目もメスっぽくなる。その袋を自らの卵と勘違いし、フクロムシの袋をかいがいしく世話するようになるというから、驚くばかりだ。
「フクロムシは海であれば波打ち際から深海まで、宿主がいる場所ならどこでも幅広い海域に存在し、素早いハッキングスキルでカニの心と体を乗っ取っていきます。そして袋の中で産卵させた卵を育て、孵化した幼生が海中へと飛び出し、どんどん増え続けていくというわけなんです」(前出・海洋生物に詳しいジャーナリスト)
フクロムシはワタリガニに限らず、タラバガニや上海ガニなど、あらゆるカニに寄生するが、幸いなことに、人間が食べても害はないとされる。ただ、見ただけでは内子なのかフクロムシが寄生してできた生殖器官なのかがわからないため、知らずに食べている可能性はある。つまり、内子があるメスだと思って食べたカニが、実はオスだった、ということになるのだが…。
(ジョン・ドゥ)