1974年、与那嶺要監督率いる中日が20年ぶりにセ・リーグを制覇し、巨人がV10を阻止したこの年、巨人から初勝利を挙げ、4勝2敗2セーブの成績で優勝に貢献した2年目の投手がいた。1972年、千葉県立成東高校からドラフト1位で中日入りした鈴木孝政氏である。
中日一筋17年で先発、リリーフを問わず活躍し、最優秀防御率1回(76年)、最多セーブ1回(75年)、最優秀救援投手2回(76、77年)を獲得した鈴木氏だが、この時ばかりは中日優勝の喜びに感極まっていたことだろう。そう思いきや、
「優勝をこっちに置いておいてじゃ失礼ですけどね」
と言うほどの印象的な出来事があったようなのだ。
プロ野球OBクラブのYouTubeチャンネル〈プロ野球OBクラブチャンネル〉の9月24日の動画で、鈴木氏はこう振り返った。
「長嶋さんと対決できたのが、私個人的にはいちばん思い出に残りましたね。その年で辞めちゃいましたから、長嶋さんが…」
ミスターとの対戦は6打数3安打。そのうち、1本はホームランを打たれたのだが、
「ホームラン打たれてよかったですよ。全部で240本ホームラン打たれているんですよね。239本は悔しいホームランなんだけど、その1本だけは嬉しい1本だった。だって長嶋さんが打ってくれたっすもん」
さながら長嶋に憧れるファンまる出しの様相なのである。
「ミスターが本塁打を放った投手は、全部で126人。通算で最も多く打たれたのは村山実(阪神)の21本で、次いで金田正一(国鉄、巨人)の18本でした。74年のミスターは15本塁打で、そのうち3人の投手から初本塁打を記録しています。山本和行(阪神)、村上善則(中日)、そして鈴木氏も1本献上しました」(スポーツライター)
相手投手までも魅了するとは、さすがミスタープロ野球なのである。
(所ひで/ユーチューブライター)