桁外れの怪物、逸ノ城(21)が、入幕2場所目の九州場所で関脇として上位陣と激突する。場所前にはストレスから体調を崩したものの、手負いの獅子の活躍を予測する関係者がほとんど。それもそのはずで、驚異的な「怪物伝説」の数々がそれを裏付けているのだ。
「今の逸ノ城は入幕2場所目の小錦に似ていますね。小錦もハワイの黒船と言われ、200キロの巨体でスピード感にあふれる相撲を取り、信じられない動きを見せた。その後、太りすぎで綱は張れなかったが、逸ノ城の素質はそんな小錦以上です」
こう語るのは相撲評論家の三宅充氏である。三宅氏の見るところ、逸ノ城の相撲はまだまだ未熟だが、それを補って余りあるナチュラルパワーがあるという。
「上手を取るにしても、上から取りにいくし、ぶつかり稽古も足りない。素質だけでやっている感じがします。しかし、200キロの巨体でありながら、前後左右の動きがいい。あの怪力といい重い足腰といい、将来的には頂点を極めると思いますね」(三宅氏)
その規格外の怪物パワーは、中学生まで暮らしていたモンゴルでの遊牧民生活と、無縁ではない。逸ノ城を知る元力士が証言する。
「逸ノ城が生まれたアルハガイ県バットツェンゲル村はウランバートルから西へ450キロメートル。一家は馬40頭、牛30頭、羊400頭、ヤギ100頭を飼って生活していた。何しろ、家畜が一番の財産だけに、子供の頃から銃を持って、夜、家畜を狙う狼を警戒した。そのため、夜目が利き、視力がすごくいいそうですよ」
羊などの家畜を追い込んだりする必要性から、とんでもない能力も身につけているというのだ。
「逸ノ城は幼少期から、羊などを育てるうちに、言うことを聞かない暴れ羊などを力ずくで組み倒す技術も習得している。オーストラリアなどの羊畜が盛んな地域でも、生きた羊の毛を刈るには3~4人がかりで取り押さえるのが一般的。しかし、逸ノ城は、一人でできてしまうという。こうしたことも現在の相撲に役に立っているのではないでしょうか」(スポーツ紙相撲担当記者)
仕事はそれだけではなかった。
「500キロ以上ある牛を引いたり、森から木を切り出し、のこぎりで切るため、自然と腕力がついたそうです。両親のどちらの血筋も怪力でしてね。逸ノ城の3代前の親類には、ナーダムというモンゴル相撲の全国大会で8年連続優勝したワンダンという名の横綱がいる。この人も歴史的な怪力だったそうです。ま、親戚に相撲の神様・双葉山がいるようなものですよ」(元力士)
真冬になると、氷点下20度にまで下がる酷寒の地で幼少期を過ごしたため、忍耐力も強い。相撲の稽古よりも過酷な環境で育った“怪物”に、専門家誰しもが太鼓判を押すのだ。