友達はもちろん、見ず知らずの人間からもらった得体の知れないお菓子を食べる感覚が、どうにも理解できない。無差別テロや危険ドラッグの可能性もあるのに。
11月に入り、大麻由来成分が入ったグミを食べて体調不良を起こす事件が相次いでいる。11月4日に東京・小金井市の武蔵野公園で開かれた「武蔵野はらっぱ祭り」会場で、中年の男が配っていたグミを食べた10代から50代の6人が次々と体調不良を訴え、うち5人が病院に搬送された。祭りの参加者によれば、会場では「グミをもらわないよう」アナウンスがあったという。祭りの実行委員会はグミを配っていた男性を特定し、警察に通報したと公表している。
それに前後して11月3日には、京成線押上駅(墨田区)のホームで、11月15日には板橋区内のマンションで、それぞれ大麻グミを食べた後に体調不良を訴える119番が相次いだ。いずれも軽症だという。
これらのグミに含まれているのは、ザックリ言えば、大麻に含まれるカンナビノイドという麻薬成分の類似物質。現在の法律では、人工的に作り出した「麻薬成分」の分子構造が少しでも違えば規制の対象外となるため、法律での規制と新しい成分の「大麻グミ」「大麻リキッド」開発のイタチごっこがエンドレスに続いている。
例えば今年7月と8月に、厚生労働省が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」で、危険ドラッグとして「指定薬物」に指定したTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)とCBD(カンナビジオール)関連物資が含まれるグミやリキッド、タバコは、薬機法が施行される今年8月までメジャーな通販サイトのほか、ドン・キホーテ、ヨドバシカメラcom、薬局で販売されていた(ヨドバシでは取り扱い終了、ドン・キホーテは9月に一部CBD商品の処分依頼を発表している)。
THCHとCBD関連物質の規制後に出回っているのが今回、健康被害が相次いでいるHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)であり、厚労省がHHCHに規制をかける頃には別のドラッグが開発されていることだろう。
これらを摂取すると、急性症状として意識消失や悪心、血圧低下などのショック症状が起きる。数回の利用でも知能低下や幻覚、短期記憶力の低下、運動機能低下、統合失調症を引き起こす。
特に厄介なのが「脳の記憶を司る部分」に作用した場合だ。自分が過去に不快と感じたもの、例えばミミズやムカデや害虫の記憶が呼び起こされ、それらが手足を這う幻覚をもたらす。
しかも新しく開発され、より脳に刺激を与えるように改良された「合成麻薬」なので、人体や脳への影響や副作用は、全くの未知数。神経細胞とより強固に結合すれば、治療を受けてもゾッとする幻覚が治癒するとは限らない。
自分たちの給料を上げる「国家公務員特別職の給料アップ法案」は衆議院でわずか1週間でスピード可決したクセに、これらの「麻薬成分」を包括的に規制する法案は全く出さない岸田内閣。こんなフザけた政治家と官僚ばかりでは大人はもちろん、若者も今を絶望し、将来に希望など持てるわけがない。それでも「大麻グミ」で現実逃避することだけは、どうかやめてほしい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)