アメリカ西海岸のサンフランシスコ近郊で、1年ぶりに行われた米中首脳会談。だが、史上最悪のレベルにまで冷え込んだ米中関係の雪解けは、全く見えてこない。
今年6月、アメリカのバイデン大統領は中国・習近平国家主席を「独裁者」と一刀両断。中国側は「挑発だ」「ばかげている」などと猛反発していた。今回の米中首脳会談の直後に行われた記者会見でも、バイデン大統領は次のように述べて、前言を撤回しなかった。
「我々とは全く異なる共産主義国家を統治している人物という意味で、習近平は『独裁者』だ」
当然ながら中国外務省の毛寧副報道局長は、
「完全に間違っており、断固として反対する」
と猛反発している。
そんな中、アメリカ国内では「来年には全米からパンダが1頭もいなくなる」との悲痛な声が、燎原の火のように広がり始めている。いったいどういうことなのか。
今年11月初頭、アメリカの首都ワシントンにあるスミソニアン国立動物園のパンダ舎の前には、多くの来園者の姿があった。次から次へと来園者がパンダ舎に詰めかけたのは、11月8日に中国に返還されることが決まっていた3頭のパンダ、すなわちメイシャン(美香=メス25歳)とティエンティエン(添添=オス26歳)、そして2頭の子供にあたるシャオチージー(小奇跡=オス3歳)との別れを惜しむためだった。
複数の米メディアによれば、スミソニアン動物園側は前例に倣ってパンダの貸与延長を申し入れたが、中国側は断固としてこれを受け入れなかったという。
アメリカ国内では、2019年に西部サンディエゴの動物園からパンダが返還されたのに続き、今年4月には南部メンフィスの動物園でもパンダの返還を余儀なくされている。しかも来年には南部アトランタの動物園からの返還も予定されており、これが断行されれば、全米からパンダが1頭もいなくなる事態に立ち至るのだ。
中国の「パンダ外交」の過去と現在に詳しい国際政治学者が指摘する。
「パンダ外交の歴史は古いが、習近平は今、『新パンダ外交』を掲げて戦略を先鋭化させている。具体的には、ロシアなどの友好国にはパンダを積極的に貸与する一方、アメリカなどの敵対国にはパンダの返還を迫るという、露骨な両面戦術です。今回の全米からの全頭引き上げ作戦も、習近平がバイデンから『独裁者』と名指しされたことへの意趣返しとみて間違いない。要するに、パンダを利用した『嫌がらせ外交』です」
今後、日本も含めた西側諸国でパンダが見られなくなるのも、時間の問題かもしれない。
(石森巌)