自民党5派閥が政治資金パーティー収入を過少記載したとして告発された問題は、東京地検特捜部が派閥側から事情聴取し、国会では野党が岸田文雄政権を追及する事態に発展している。2019年から2021年までの4年間で、不記載金額は安倍派(清和政策研究会)が約1900万円と突出している。対照的に岸田総理が会長を務める岸田派(宏池会)は約200万円と最も少額で、自民党・麻生太郎副総裁が会長の麻生派(志公会)も約600万円と、5派閥の中では下位となっている。ただ、これには理由がある。
総務省は各都道府県にインターネットで政治資金収支報告書を公表するよう呼びかけているが、岸田氏の地元・広島県と麻生氏の地元・福岡県は人員不足などを理由に、ネットで見ることができなかった。広島県は今年からネットで閲覧できるようになったが、2021年分までは相変わらず、収支報告書を閲覧するためには県庁に出向く必要がある。
不記載はパーティー券の購入団体側と派閥側の記載のズレから発覚する。この問題を追及してきた神戸学院大学の上脇博之教授は不記載に問題があるとして、政治資金規正法違反容疑で東京地検に刑事告発してきた。ただし、岸田派や麻生派の分については、十分に調べられなかったという。
このため、国会でパーティー収入の不記載問題が取り上げられたことを受けて、宏池会や志公会の実態はどうだったかが注目を浴びている。今後、調査が進めば、2つの派閥の不記載は増えるかもしれない。
自民党ではかつて「派閥政治」が批判されたため、総理大臣就任を機に派閥を一時的に離脱するケースが相次いだが、岸田総理は2年前にトップの座に就いても、派閥会長のポストを手放さなかった。菅義偉前総理はその判断を批判したが、岸田総理は意に介しなかった。宏池会では古賀誠前会長が隠然たる力を持っており、会長ポストを譲ると求心力を失うかもしれない、との懸念を抱いていたためだ。
この結果、政治資金パーティーの不記載問題は、派閥会長である岸田総理を直撃する可能性がある。今、岸田総理は派閥会長ポストに固執した判断を、悔いているかもしれない。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)