ネット視聴サイト「TVer」のドラマ視聴ランキングに、ちょっと異変が起きている。サスペンスや恋愛、サクセスストーリーといったドラマの定番モノは視聴数が伸びず、トップ10入りする作品には「生きづらさ」を抱える主人公、という共通点があるのだ。
「トクメイ!警視庁特別会計係」(フジテレビ系)で橋本環奈が演じるのは、絶望的に運の悪い女。「セクシー田中さん」(日本テレビ系)は、小学校の頃から友人もできない、地味で内向的な経理部の田中さんが主人公。「若くて可愛い以外に取り柄のない」派遣OLとの友情と、ベリーダンスを機に人生を変えていく様子を、名バイプレイヤーの木南晴夏と「めるる」こと生見愛瑠が好演している。
伝説のベリーダンサーを未唯が演じており、アラフィフ視聴者はその美脚がチラ見えする衣装とダンスに、往年のピンク・レディー時代を思い出したことだろう。
TOKIOの松岡昌宏主演「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系)は、家政婦紹介所内では男として知られているが、派遣先では女として振る舞う、ワケありな「性別不明のスーパー家政夫」が、壊れかけた夫婦関係やこじれた親子関係など派遣先の家庭のトラブルを解決していく。
「きのう何食べた? season2」(テレビ東京系)の主人公は、西島秀俊と内野聖陽の同性嗜好カップル。西島扮する弁護士は周囲にそれをひた隠しつつ、月3万円以内の食費で美味しい手料理を、美容師の恋人と一緒に食べることを生き甲斐にする倹約家を演じている。
まだまだいこう。次は「コタツがない家」(日本テレビ系)だ。妻に言われたことをやらない、漫画を描かない「ニート漫画家」のダメ夫・吉岡秀隆に苦労させられる妻を、小池栄子が演じる。みんなが善人なのに、傷つけ合う。夫は妻の期待を裏切り続ける…。健気な娘を見ていられない舅の小林薫が吉岡に毎回、苦言を呈するシーンは、ドラマ史に残るであろう名演技の応酬だ。
「いちばんすきな花」(フジテレビ系)は、人付き合いに自信のない4人の群像劇だ。4人には学校で、先生に「2人組を作るように」と言われて1人残ってしまう子供時代を送った共通点がある。接客業なのに1対1の会話が苦手、人間づきあいを生徒に教えられない、唯一の親友とは結婚を機に絶縁…と、視聴者がテレビの前で「あるある!」と呟いてしまうような生きづらさを抱えている。
夏の大ヒットドラマ「VIVANT」(TBS系)の登場人物のようなスーパーマンは実在せず、伏線だらけのストーリーを深読みするのにも疲れた。リアル社会で生きているのは自分たちと同じ、無力感や家族関係、人間関係に悶々とする普通の人たちだ。
4年ぶりに職場の忘年会が復活すると聞いて溜め息をついたアナタ、善人だけど不器用なドラマの登場人物たちから元気をもらおう。