腰痛持ちのサラリーマンにとって、老人サロンと化した整形外科の待合室は苦行の場だ。「自転車飛ばしてきた」「午後は血圧の薬もらいに行く」とお喋りに夢中になり、2時間も3時間も待合室の椅子に座り続けてケロッとしている高齢患者を見ていると、これで整形外科に湿布をもらいにくる必要があるのか、と。腰の痛みに脂汗をかきながら、筆者はいつも疑問に思っている。
この老人への「クスリばらまき」が見直される…かもしれない。11月30日、東京新聞に東京医師会・尾﨑治夫会長のインタビューが掲載された。そのインタビュー記事中、尾﨑会長は「医療や介護は高齢化で、どんどん需要が伸びる。いま財源を削ったら悲惨なことになる」としながらも「何でも保険でみるというとどんどん医療費は膨張する。もういいかげんに、湿布薬や保湿剤は医療保険から外してはどうか」と、湿布薬のバラマキに待ったをかけたのだ。
日本医師会の政治団体「日本医師連盟(日医連)」が岸田文雄総理に1400万円、武見敬三厚労相に1100万円を政治献金していたことが明らかになったように、日本医師会は与党最大のロビイスト団体だ。
日本医師会は、後期高齢者に1割負担の格安料金でバラ撒かれている湿布や保湿剤、かゆみ止めなどを保険診療から外すことに、反対の立場を表明していた。
医師会の地方組織としては最大の東京都医師会が態度を軟化させたことには、財務省が「日本の開業医は儲けすぎ」と判断した影響もあるだろう。国の予算等の具体的な方針を財務相に提言する諮問機関、財政制度等審議会は11月20日、開業医の経常利益率があまりに高いと指摘。初診料や再診料などを含めた開業医の医療の値段、診療報酬の単価を5.5%引き下げるよう、財務省に要請した。財制審の財政制度分科会会長代理・増田寛也氏は同日、「医療機関は保険料や多額の税金が投入されているため、他の民間企業と同一視できない」と、日本医師会の反論を退けた。
財務官僚が日本の医者より賢いのは「開業医の利益率が高いのは患者を守るため」という医師会側の建前に対し「それなら開業医が儲からんでもええやろ。開業医は儲からなかったら、これまで必要と主張してきた患者の治療やクスリをやめるんか」と虚を突いてきたことにある。
1年に2回も値上がりした、我々の健康保険料。「増税クソメガネ」への政治献金や高齢者の湿布代に使い込まれるなら、診療報酬を5%といわず40%くらいゴリゴリに削って、健康保険料を値下げすべきだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)