昨今の働き方改革の影響で若い世代を早く帰す一方で、その皺寄せが育成側の中間管理職の医師にきている――。サラリーマン社会と同じような構図が、医療業界にも出来上がっているという。これは医師で元厚生労働省医系技官の木村盛世氏が先ごろ、YouTube番組「帰ってきた虎ノ門ニュース」で語った、中堅医師の過重労働の実態だ。
働き方改革により、企業は時間外労働の抑制をするようになった。だが時間外を圧縮しても、仕事量が激減してくれるわけではない。引田天功ならそれもできるかもしれないが、我々一般人には無理な話である。
医師の過重労働も同様だ。いくら勤務時間を減らそうとも患者の数が減るわけではないので、業務の総量は変わらない。
部下に時間外勤務を頼もうとしても、上層部や経理からは、残業で発生する経費を削減するよう求められる。無理に頼めばパワハラになりかねないので、どうにも二の足を踏んでしまう。結局は残業代がつかないまま、中間管理職が泣く泣く自分で片付けるハメになる。
管理職は残業時間の上限ルール、いわゆる「36協定」の対象外なので、「定額働き放題プラン」の上、無限に残業をすることができる。かくして「中間管理職・無限残業編」がスタートする。事実、筆者の周囲でも、気が付けば中間管理職ばかりが残業をしている。
この中間管理職を担う人たちの多くが40代後半になるであろう、就職氷河期世代を経験した世代である。就職で苦労してなんとか中間管理職にまで辿り着いたと思えば、この仕打ち。
さらにこの世代は、今なら確実に放送禁止となりそうな「24時間働けますか」のキャッチコピーで一世風靡した「リゲイン」のCMを見て育った。若い頃は残業&パワハラ上等の世界ですごしていたのに、いざ自分が管理職になると部下の残業は抑制され、かつて自分を育てた上司の手法の多くは、パワハラとして使いものにならない状態になっている。
このようなことを書いても「残業をするのは無能だから」とか「それが管理職だ」といった辛辣な意見は多いだろう。
民間業者の調査によれば、「管理職になりたくない」と答えた人の割合は77%にもなるという。かつては椅子の奪い合いであった管理職が、今やドラえもんのジャイアンリサイタルの招待状と同じ扱いになりつつある。
管理職のメンタルケアや環境改善は今後、企業がさらに取り組むべき課題となる。さもなくば、管理職無限残業列車は止まることなく、やがて乗り手はいなくなるだろう。
(群シュウ)