自民党最大派閥の清和政策研究会(安倍派)の政治資金パーティーをめぐる問題で、安倍派関係者らが首を傾げる事態が起きている。松野博一官房長官をはじめ、有力議員がパーティー券販売におけるノルマ超過分のキックバック(還流)を受けていたとして、連日のように報じられている中で、派閥会長を目指していた下村博文元政調会長の名前が全く出てこないのだ。
新聞、テレビ報道を見ると、決まって「関係者」が明らかにしたとなっている。これは検察側からのリーク、というのが永田町の常識だ。松野官房長官をはじめ「5人組」と呼ばれる幹部たちが、相次いでキックバックを受けていたと報道された。
5人のうち松野官房長官、西村康稔経産相、高木毅国対委員長は、派閥の事務総長経験者。安倍派において実務を取り仕切っていたことから、キックバックの内情についても詳しいとみられている。だが、同じく事務総長経験者でありながら、下村氏の名前は「関係者」の話として、今のところ報道されていない。
安倍派の政治資金問題を追及してきた神戸学院大学の上脇博之教授は、これまで派閥会長だった細田博之前衆院議長と会計責任者、事務担当者を告発の対象としてきた。そこへ告発補充書を東京地検に送り、松野、西村、下村の3氏を刑事告発の対象として追加した。細田氏とともに、政治資金収支報告書に記載方針を決定する立場にあったから、というのがその理由だ。下村氏は2018年、松野氏は2019年、西村氏は2021年の収支報告書に、事務総長として関与した。
下村氏は安倍晋三元総理の後任の派閥会長に意欲を示したが、今なお派閥に影響力を持つ森喜朗元総理の意向を受けて、新たな意思決定機関である常任幹事会のメンバーから除外された。このため「下村氏は検察側の捜査に協力しているのではないか」との疑念が、安倍派内に出ているのだ。
日本でも刑事司法制度改革の一環として、2018年に司法取引が導入された。捜査に協力する代わりに不起訴にしてもらったり、求刑を軽くしてもらったりできる制度だが、ある安倍派の閣僚経験者は、
「下村氏が司法取引を利用しているのではないか」
と語るのだ。
「5人組」が岸田政権内から一掃されることになったことで、下村氏としては溜飲を下げる結果となったが、「5人組」に代わり派内で実権を回復するのか、あるいは仲間を売ったとして排除され続けるのか。疑念を払拭するためには、下村氏本人が説明する必要がありそうだ。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)