これもアメリカンドリームだろう。エンゼルス時代のチームメイト、マイク・トラウトやサッカーのリオネル・メッシを上回るプロアスリート史上最高額の「10年7億ドル契約(1015億円)」をつかみ取った大谷翔平だが、その代理人のネズ・バレロ氏の報酬は、50億円に上る見込みだという。不幸な事故でメジャーリーガーの夢を絶たれたバレロ氏だったが、順当にメジャーリーガーの道を歩むより、もしかすると人生の成功者になったのだから面白い。
バレロ氏はペパーダイン大学卒業後の1985年、ドラフト4巡目でシアトル・マリナーズに指名されたが、結婚した1989年オフに悲劇に見舞われる。2A在籍のオフシーズン、生活費を稼ぐための副業として建設工事現場で働いていたところ、足場から転落。背中、骨盤、肋骨を骨折する重傷を負った。懸命なリハビリで復帰したものの、やがてマリナーズから放出され、引退へとつながった。50億円は新婚早々にメジャーの夢が破れる生活を支えた、糟糠の妻に捧げる報酬ともいえよう。
その後はアトランタ・ブレーブスのスカウトのかたわら、野球学校を経営。海千山千のメジャーリーグ球団と粘り強く交渉するネゴシエーターとして頭角を表すのは、2006年にカリフォルニア州にある「CAA」(Creative Artists Agency)のスポーツ部門「CAA Sports」の共同創設者となってからだ。「CAA」は日本国内では吉本興業と業務提携、西島秀俊や菊池凛子の代理人のほか、ハリウッドではトム・クルーズやブラッド・ピット、ナタリー・ポートマン、デヴィッド・ベッカムの代理人も務める、世界屈指のエージェント会社だ。
ドジャースは野茂英雄やダルビッシュ有が在籍したが、先発登板数に応じた出来高払いを約束されていながらリリーフに回され、挙げ句にポストシーズンに放出された前田健太(現タイガース)の扱いを覚えているファンからは、大谷の移籍を心配する声も上がる。
だがバレロ氏の手腕であれば、破格の契約金だけでなく、今後10年間の大谷の起用法についても細かい契約条件がついているとみるのが妥当だ。
ペパーダイン大学といえば19年前、山崎拓氏を破って当選した古賀潤一郎元衆議院議員(当時は民主党所属、福岡2区)の学歴詐称で話題になった。留学生は長らく肩身の狭い思いをしてきたが、これからはバレロ氏という大先輩を自慢できることだろう。
(那須優子)