これは「大阪・関西ブランド」の終わりの始まりなのか。
ダイハツ工業の不正問題で、国土交通省は12月21日午前、大阪府池田市にある同社の本社へ立ち入り検査に入った。
ダイハツが前日に公表した第三者委員会の報告書によれば、同社の不正行為は1989年から30年以上にわたって行われ、新たに判明した不正は安全性など25の試験項目、国内で生産・開発中の全28車種、計174件にのぼるという。命を守るエアバッグ作動試験にまで不正が及んでいた悪質ぶりには、もはや震えるしかない。
174件の不正行為について、報告書は「不正加工・調整」「虚偽記載」「元データ不正操作」の3つに分類。いずれも意図的に行われていたと認定した。
不正を受けてダイハツの親会社であるトヨタ自動車の株価は12月21日、急落。東京株式市場では一時、2495円まで下落する場面もあった。午前の取引は前日終値比100.5円安(マイナス3.80%)の2543.5円で終えた。
以前、筆者が勤務していた福祉施設の同僚によると、すでに利用者の家族から「高齢者や障害者の送迎にダイハツ車を使うな」という苦情が来ているといい、
「こっちは何も悪くない被害者なのに、朝から謝罪してばかり」
と対応に苦慮しているという。
「大阪ブランド」と日本の製造業の信用失墜は、今に始まったことではない。新型コロナ禍では「大阪発ワクチン」の開発に血税93億円が浪費され、その「A級戦犯」たちが今度は大阪万博利権に群がっている。
「2025大阪・関西万博」の大阪府・市の「ヘルスケアパビリオン」総合プロデューサーである大阪大学の森下竜一教授(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座)は、医学部助教授だった1999年12月に大阪大学発の創薬ベンチャー企業「アンジェス」(大阪府茨木市)を立ち上げ、2012年12月の第二次安倍晋三政権では内閣官房の「健康・医療戦略室」参与を務めてきた。いわば第二次安倍政権の身内、いわゆる「安倍トモ」である。
その森下教授が「日本発の新型ワクチンを開発する」と表明したのは、新型コロナの第1波が押し寄せた2020年3月のこと。森下教授は記者会見で「DNAワクチンなら短期間に大量生産できる。緊急対策に適している」とまで言い切った。
国と安倍政権はバイオ製薬会社「アンジェス」にワクチンの大規模生産体制整備支援をする名目で約93億円の巨額支援を行い、これに乗っかるかのように、大阪府の吉村洋文知事も翌4月と6月に、
「7月頃には初の治験ができる。9月頃には実用化し、年内には10万、20万人に接種する。これは絵空事ではない」
「新型コロナのワクチン開発はぜひ、大阪で実現させたい。オール大阪で取り組んでいく」
などと語った。他の日系製薬会社もワクチン開発に乗り出していたにもかかわらず、アンジェスにのみに肩入れする発言を繰り返したのである。
その結果、アンジェスの株価は2020年2月28日に375円だったのに対し、大阪市立大学附属病院での治験が承認された同年6月26日には2492円まで急騰した。
森下教授と吉村知事らの発言が「結果的にわれわれ納税者と投資家を欺いてきた」ことは、今年のノーベル医学・生理学賞受賞者が、メッセンジャーRNA(mRNA)技術を開発し、新型コロナワクチンを実用化させた米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ氏らであったことからも明らかだ。(後編に続く)
(那須優子/医療ジャーナリスト)