阪神も巨人と同じく、ブランドだけでは通用しない、むしろブランドが邪魔してしまうこともある厳しい時代になったと言えます。関西という独特の生活習慣に抵抗がある選手もいるはずです。ファンの強すぎる思いをプレッシャーに感じる選手もいるでしょう。新聞やテレビなど、取材陣の数も巨人を上回る12球団でダントツの人数です。その環境で成功を収めれば天下を取ったような気分を味わえるでしょうが、ダメだった場合は家族が悲しむほどマスコミに叩かれてしまうのです。相当な自信がないと飛び込めない「イバラの道」に感じてしまうのかもしれません。
私はこの流れをプラスに捉えたチーム作りをするしかないと思っています。そもそも「補強できなかった」のが誤算なのではなく、「補強しなければ勝てない状況」が誤算なのです。若手が十分に育っていれば補強の必要はないはずです。
近年は毎年のように「つぎはぎ補強」と言われてもおかしくないチーム作りをし、若手を我慢して使うチャンスを閉ざしてきました。使わないから選手は育たないのです。
今季の上本がいい例です。開幕直後に福留と激突した西岡の長期離脱で、上本を二塁のレギュラーとして使わざるをえない状況となりました。来季は西岡のセンターコンバート案が検討されるほど、上本はこの1年で力をつけましたが、あのアクシデントがなければ、くすぶったままだった可能性が高いのです。
今季の阪神は、投手ではメッセンジャー、呉昇桓、野手ではゴメス、マートンと外国人選手が4人とも結果を残したことで、全員残留が決まりました。助っ人も含めて、これだけ補強が少ないシーズンも珍しいと言えます。不動の正遊撃手である鳥谷がメジャーに流出してしまう可能性が残っていますが、だからこそ、大変革のチャンスなのです。三塁を空けて待っていた中島は獲れませんでしたが、北條や陽川ら楽しみな若手がいます。外野にも伊藤隼、中谷、横田ら発展途上の選手がそろっています。彼らの中から1人でも大ブレイクすれば、十分に優勝を狙える戦力となるはずです。
ただし、それが簡単でないことは百も承知です。巨人にはCS最終ステージで4連勝したものの、シーズンでは7ゲーム差をつけられました。その差をいかに埋めるか。補強に成功したヤクルトが台風の目になることは間違いありません。1年間先発ローテを守ってくれる成瀬の加入は、投手陣全体に大きな影響を及ぼします。遊撃・大引で守備全体も落ち着くでしょうし、打線はリーグ屈指の破壊力を持つだけに、手ごわい相手です。菊池、丸が引っ張る広島も、頂点を目指せるチームです。
来季で4年目を迎える和田阪神が、そのライバルに「補強なし」で勝てば、今後の球団方針を見据えても価値ある栄光となるのです。
阪神Vのための「後継者」育成哲学を書いた掛布DCの著書「『新・ミスタータイガース』の作り方」(徳間書店・1300円+税)が絶賛発売中。