「不要不急の電話については、ほかの緊急通報の妨げとなりますので、最後までお話を聞かずに切断する場合があります」
この冬、東京消防庁が異例の呼びかけをしている。昨年、同庁が受電した119番通報件数は速報値で103万6645件と、同庁が統計を取り始めて以降、初めて100万件を超えた。
103万件以上の119番要請のうち、2割にあたる約20万件は「携帯電話を買い替えたので、電話が通じるかテストしてみた」「明日病院に行く予定なので朝、送迎してほしい」などの、救急搬送と全く関係のない内容だという。こうした迷惑電話のせいで、火事や事故の通報でオペレーターに繋がるまで5分以上を要するケースもある。
残りの救急要請80万件の内訳もひどい。筆者が救急隊員や救命救急センター関係者から実際に聞いた事例を挙げると、
「火傷というから救急隊員が駆けつけたら、20代の子供が海水浴で日焼けして、背中が痛いと言っている」
「自宅に体温計と血圧計がないから、救急隊に測ってほしい」
「37度の熱が出たから市販薬を飲んでいいのか、相談相手が欲しかった」
「眠れないから救急隊員に話し相手になってほしかった」
「今年大学に入った息子に保険証を持たせていないので、病院にかかるとカネがかかる。救急隊員が病院に送り届けてほしい」
などなど。あまりにフザけている。それでも救急隊員は「てめえフザケンナ」と怒ることも救急車を断ることもできず、救急車を呼んだ本人が搬送を辞退しない限り、根気強く搬送先を探さねばならない。
そんな調子だから、実際に病院に搬送した80万件のうち、入院加療が必要でない軽症患者は40万件以上と、搬送案件の過半数に達している。
入院が必要と判断された30万件超にしても、急病人とは限らない。これらの中等症患者には「老人介護施設」や「整形外科」からの救急要請が含まれる。老人施設の勤務医や整形外科医が、入院患者が「熱が出た」「コロナ陽性になった」というだけで救急車を呼びつけ、「たらい回し」にしているのだ。
中でも印象的なのが「市販の解熱剤を飲んでもいいか」「医者からもらった薬を飲んでもいいのか」というおクスリの相談だという。救命救急センターで働く看護師によれば、
「『薬を飲んでいいのか自分では決められない、お医者さんに相談したい』というおバカな相談者が大学生から高齢者まで、あらゆる世代にいます」
新型コロナで孤立し、相談相手のいない孤独な人が増えているのも一因だろう。一方で、相談に乗ろうとしても、薬や食物アレルギーがあるかどうかは覚えていない、他に飲んでいる薬の名前は知らない…と会話が成り立たない患者も多々いるというのだ。
大学受験シーズン真っ只中。自分にどんなアレルギーがあるかも覚えられない我が子を是が非でも大学に進学させる前に、親がやるべきことはあるのではなかろうか。
(那須優子/医療ジャーナリスト)