先日、新宿から帰宅途中の電車内で突然、映画「ゴッドファーザー/愛のテーマ」の着メロが大音量で響き渡り、ドキッとした。携帯電話の持ち主は70代と思われる、サングラスにハンチング姿の高齢男性。さすがにバツが悪かったのか、「くそっ、切っちまえ!」と独りごちて電源を切り、何事もなかったそぶりを見せた。
久々にあのメロディーを聴いて、ある人物を思い出した。強烈なキャラクターで世間を賑わせ、その後はタレントとしても活躍した、日本ボクシング連盟元会長の山根明氏だ。
山根氏が審判の不正や助成金流用などの問題で告発され、会長を辞任したのは2018年8月である。実は筆者は問題が発覚する5年ほど前、全くの別件で一度だけ山根氏に電話取材したことがある。
その際には電話口から聞こえる「はっはっはっ、オレは男の中の男だからな!」という例の浪花節的口調にも嫌な気はしなかったが、さすがに次から次へと出てくる疑惑には、驚かされたものである。
山根氏が会長辞任を決意する前日の2018年8月8日、大阪市内で囲み取材に応じ、発した言葉は次のようなものだった。
「私の生涯、男としてもけじめを話す。私は歴史に生まれた歴史の男でございます。だから自分の判断は自分で決めます」
「世界のカリスマ山根と呼ばれとります」
「オレは一匹狼。無冠の帝王や!」
日めくりカレンダーのごとく繰り返される「金言」が連日、テレビでも取り上げられることになった。当然、この強烈なキャラクターをテレビ業界が放っておくはずもなく、同年9月には「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)に出演。
その後も各バラエティー番組に出演し、テレビ東京の特番ではたけし自らが山根氏を対談相手に選び、再共演を実現させた、なんていう報道もあったほどだ。スポーツ紙記者の話。
「なんでも、番組収録に付き添った会長の妹さんがたけしに『今度はぜひ、兄を(映画の)マフィア役で使ってくれませんか』と聞いたらしいんですよ。するとたけしが『いや~、会長が出たらみんな(他の役者が)食われちゃうから、勘弁してほしい』と。バラエティー番組に出演し始めてから、行きつけの喫茶店で記念撮影やサインを頼まれることも多く、服や帽子も新たに買い揃えたそうですからね、第2の人生を満喫していたのかもしれませんね」
山根氏は2019年2月、YouTuberとしてもデビュー。動画ではボクシング連盟への反論を熱く語ったり、大ファンである映画「ゴッドファーザー」シリーズの魅力を語るなどして、再生回数を伸ばしていたが、近年は体調を崩して大阪市内の病院に入院。
今年1月31日に肺ガンのため、亡くなっていたと報じられた。84歳の生涯だった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。