かつては「自民党のラスボスVS小池百合子」という構図だった小池都政の雲行きが怪しくなってきている。
東京都が昨年9月から始めた「将来の出産に備えた卵子凍結」助成事業に300人の想定をはるかに超えた5000人の応募があり、条件を満たした2800人超の申請者全員に、最大30万円の助成金を支給する方針を決めた。同事業の来年度予算は、5億円に引き上げられるという。
卵子凍結の助成対象となるのは、都内在住で、採卵を実施した日の年齢が18歳から39歳までの女性。東京都はこれまで、治療の副作用で妊娠できない可能性がある若いガン患者を対象に助成を行ってきたが 今年度から対象を拡大していた。
卵子凍結は排卵誘発剤などを使って採取した卵子を、凍結保存しておくもの。結婚相手やパートナーが見つかった時に解凍、人工受精させて女性の子宮に戻すのだが、日本産科婦人科学会は安全性の観点等から積極的には推奨していない。
また卵子凍結による人工受精を扱っている専門病院でも「生まれてくる子供の福祉を考えて」人工受精には43歳から45歳の年齢制限を設けている。
2023年11月26日付の本サイト記事でも、元AKB48・指原莉乃の卵子凍結の話題と元アイドルの卵子が盗難、悪用されるリスクについて取り上げた。
もし卵子凍結保存の関係先にさっしーの病的なファンがいて、「推しと自分の精子で作った子供が欲しい」と卵子を盗み出し、代理母を使って指原の子供を作ることだって、技術的には可能だ。日本国内では、離婚した夫に未練がある元妻が、凍結していた受精卵を使って妊娠出産した事案も報告されている。医療と人生の多様性は時に、迷いと悲劇を生み出すこともある。
今回の凍結卵子助成の応募者の過半数は、35歳から39歳の女性。凍結したのはいいが、「人工受精は45歳まで」という年齢制限を設けている産科が多いため、妊娠出産のチャンスは最短6年となる。
45歳で妊娠を希望しても、すでに更年期が始まっており、着床率は落ちる。もし着床、妊娠出産しても、我が子が大学を卒業する頃に、親は60代後半。定年退職年齢を過ぎており、経済的不安が生じる。
6年後はもちろん、明日の人生もわからないので、すぐに凍結卵子を使うチャンスがあるかもしれない。仕事が落ち着いたら出産したいと夫婦で計画した上で、凍結した人もいるだろう。それでも39歳への助成はストライクゾーンが狭く、リスクが大きすぎて、本当に少子化が解消するのか、その費用対効果には疑問が残る。
「子育て支援」を口実にした小池氏の乱脈都政は今後も検証していくが、3月12日放送の「DayDay.」(日本テレビ系)の少子化特集で、MCの山里亮太は、
「支援とかばっかりでいつも思うんですけど、本当にもう(お金を)取るところを減らすという選択肢をそろそろやってくれないと」
育児世帯の税負担が限界まできていることに言及した。
「配るってのも配り方、いつもあんまり上手じゃない配り方ばっかり目立つんで、だったら一回、取るのをやめて頂ければなと」
山里がそう言う通り、産むのか産まないのかわからない女性へのバラマキより、不妊治療の助成拡充や育児世帯への減税で第二子、第三子を産んでもらう方が、よほど少子化対策として有効だろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)