メジャーリーグ開幕戦の興奮が冷めやらぬ中、大谷翔平を公私に支えてきた通訳の水原一平氏が「スポーツ賭博」でドジャース球団を解雇されたという衝撃的なニュースが3月21日朝、日本中を駆け巡った。
地上波テレビの年配コメンテーターに、最新情報をアップデートするのは困難なのだろう。まるでスポーツ賭博を重罪であるかのように語ったが、アメリカでは州によっては「合法」である。
水原氏は元巨人でレッドソックスなどでも活躍した岡島秀樹氏の通訳を担当したことがあるが、ヤンキースやレッドソックスの本拠地があるニューヨーク州、マサチューセッツ州では、政府公認のスポーツ賭博は合法。今回、水原氏の解雇を大々的に報じている米ディズニー傘下のスポーツ専門チャンネル「ESPN」にしても、大手カジノ運営会社「PENNエンターテイメント」とスポーツブックメーカー事業の独占契約を結んでいる。同社のブックメーカーは「試合が延長戦になるか」「先発投手が何回まで投げるか」と、細かいことにまで賭けることが可能で、サイトを眺めているだけでもなかなか面白い。
2012年、財政難だったニュージャージー州が税収獲得手段として、スポーツ賭博を合法化する法案を可決。全米4大プロリーグと全米大学体育協会が訴訟を起こしたが、最終的に米最高裁で「プロアマスポーツ保護法(PASPA)でスポーツ賭博を禁ずることは違憲」との判決が出た。
それでも4大プロリーグは「賭けの対象」になることに難色を示していたが、NBAやNFLの試合会場で観客が試合を見ながら、同じ英語圏であるイギリスの「ブックメーカー」に賭けるという珍現象が続出。新型コロナの影響でプロスポーツ業界が大幅に減収したこともあり、イギリスのブックメーカーにアメリカ人のカネが流れるくらいなら自前の「ブックメーカー」を作ろうと、アメリカとカナダでは急速にスポーツ賭博が広がっている。
新型コロナ禍で世界的に経済が停滞していた2022年1月にスポーツ賭博を解禁したニューヨーク州では、同年だけでもスポーツ賭博の税収が9億ドルにのぼり、賭けの対象は「対戦型ゲーム」にまで広がった。
とはいえ、水原氏が「自分はギャンブル依存症」とカミングアウトしたように、米国内では税収アップの一方でギャンブル中毒者が続出するという、新たな社会問題を生み出している。
日本でインターネット経由で簡単にアメリカやイギリスのブックメーカーに賭けることは可能でも、これらのスポーツ賭博は今のところ、日本国内ではグレーゾーンにある。水原氏はカリフォルニア州で違法賭博の元締めをしている人物とサンディエゴのポーカーゲーム会場で出会い、スポーツ賭博を始めたという。ボストン在住の日本人医師によると、
「例えばですが、在米日本人コミュニティーの中には、信用ならない人物が紛れていることもある。ホームシックも相まって、アメリカで生活できるくらいだから身元は信頼できるだろう、経済的にも困ってないだろうと『錯覚』すると、あえて在米日本人を狙った新興宗教の勧誘だった、ということもあります。医師の場合は大学の同窓生や日本にいる時から親交のある人物と付き合えばいいのですが、狭い世界に生きているアスリートとその関係者だと、そうもいかない。山本由伸投手にしても、大谷選手と水原氏を頼ってドジャースに入団したでしょうに。最悪のタイミングでのデビュー戦になってしまいましたね」
他の州では合法であれ、カリフォルニア育ち、カリフォルニア州の大学を卒業した水原氏。「カリフォルニアでは違法だと知らなかった」という言い訳は通用しないだろう。
(那須優子)