5月21日の宝塚歌劇団の発表には驚いた。雪組の一禾(いちか)あお、清見ひかりが、同日付で退団したというのだ。一禾というのは昨年9月3日に亡くなった宙組娘役・有愛きいの双子の妹で、パワハラを認めようとはしない劇団側に、遺族として声明文を発表していた。長くなるが、重要な内容なので、以下に紹介しておく。
〈私は遺族として、大切な姉の為、今、宝塚歌劇団に在団している者として想いを述べます。いくら指導という言葉に置き換えようとしても、置き換えられない行為。それがパワハラです。劇団員は宝塚歌劇団が作成した【パワーハラスメントは一切行わない】という誓約書にサインしています。それにもかかわらず、宝塚歌劇団は、日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界です。その世界に今まで在籍してきた私から見ても、姉が受けたパワハラの内容は、そんなレベルとは比べものにならない悪質で強烈に酷い行為です。厚生労働省のパワハラの定義を見れば、姉が受けた行為は、パワハラ以外の何ものでもありません。宝塚は治外法権の場所ではありません。宝塚だから許される事など一つもないのです。劇団は今に至ってもなお、パワハラをおこなった者の言い分のみを聞き、第三者の証言を無視しているのは納得がいきません。劇団は、生徒を守ることを大義名分のようにして、パワハラを行った者を擁護していますが、それならば、目撃したパワハラを証言してくれた方々も、姉も同じ生徒ではないのですか……〉
その声明文には、自身も所属する宝塚歌劇団への失望、怒りが綴られ、それはまさに魂の叫びでもあり、読んでいて胸が締めつけられそうになった。と同時に、姉の転落死翌日の日本舞踊のイベント「第56回宝塚舞踏会」に出演を最後に、休演している彼女はどうなるのか、と。
その後、歌劇団側はパワハラを認め、遺族側に謝罪したと明らかにされたが、パワハラをしたとされる上級生たちはお咎めなし。しかも、謝罪の手紙など書かないという話もあり、どういう神経なのか、と疑ってしまう。
さらに、あれよあれよという間に、宙組公演が再開されることも決定した。公演期間は6月20日から30日と、通常の公演スケジュールと比べれば短めで、演目はレビュー「Le Grand Escalier -ル・グラン・エスカリエ-」のみ。
この発表を聞いた時、生徒(劇団員)たちはどういうモチベーションで舞台に立つのか、と逆に心配になった。第一、宙組の生徒もあれ以降、退団者が増えている。そして、観客も。「あれが例のパワハラの人か!」などと思いながら、舞台を楽しめるのだろうか。
本来であれば、実の姉を亡くした一禾を気遣い、再び舞台に立てるよう寄り添って、メンタルケアをすべきでではないか、と思う。ところが結局、彼女の居場所はなくなり、志半ばで退団する羽目に。辞めるべき人は、ほかにいるのに。人の命を何だと思っているのか。
このまま有耶無耶になってしまうのかと思うと、どうにも釈然としない。宝塚歌劇団にもBBCの直撃が入らないかなぁと、切に願う。
(堀江南)