2019年9月9日未明、千葉県に台風15号が直撃。県内では60万戸が停電し、断水は12万戸以上、さらに80人超の重軽傷者が出るなど、甚大な被害を記録することになった。
通常、地方自治体では大型台風襲来前には「災害対策本部」が設置されるものだが、千葉県にそれができたのは、直撃から丸1日が経過した9月10日午前9時。しかも、県が現地に職員を派遣したのが2日後の12日とあって、その初動対応の遅さに、県民の批判が森田健作知事(当時)に集中したのである。
それから2カ月後の11月、県民はさらなる怒りを爆発させることになる。台風が千葉県を直撃した翌9月10日、森田知事が災害対策本部を放り出し、自身の別荘周辺を「私的視察」していたことが判明したのだ。メディアを含め、県民からも「ここに『青春の巨匠』偽りの本性見たり!」とばかりに、猛バッシングが巻き起こるのは当然のことだった。
11月7日の定例記者会見に臨んだ森田知事は、「私的視察」を行った理由について、次のような弁明を展開した。
「東日本大震災の時に、液状化現象による被害を車の中から視察し、役に立ったので、今回も視察しようという思いがあった。(県の)南の方が大変な状況になっているということで『東の方はどうなんだ』と考え、私的に視察した。私的な活動の時は自分の車を使うため県庁に手配を頼んだが、全て出払っていると。芝山の自宅なら入れそうだという返事だったので、『じゃあ公用車で自宅まで行くから、チェンジしようじゃないか』と」
森田知事の自宅は千葉市中央区にある県知事公舎で、芝山町にあるのが「別荘」だということは、県民なら誰もが知る話。だが、森田知事はあくまでも、
「別荘ではなく、私の自宅でございます」
と強調。さらに、自宅に立ち寄った事実を伏せていたことについては、
「自宅に帰ったか、という質問は受けていなかった」
火に油を注ぐような抗弁を繰り返し、おまけに秘書課も行動を把握していなかったことが判明するなど、改めて県の防災対策の杜撰さが浮き彫りになることになったのである。
この時点で森田県政はすでに3期目。この大バッシングに県庁職員はさぞやうんざりしているかと思いきや、県庁周辺で話を聞いてみると、こんな答えが。
「いやいや、前知事の堂本暁子さんに比べれば、うるさいことは言わないし、特別な指示を出すこともない。登庁してもすぐに帰るし、週の3分の1は出てこない。ただハンコを押すだけの人なので楽でいいと、職員からの人気は高いんです」
結局は「県知事としての実績は、東京湾アクアラインの料金を値下げしただけ」と県民から揶揄され続けた森田知事は任期まで務め上げ、2021年4月、県庁を去ることになったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。