初土俵から7場所での優勝は、幕下付け出しとしては、石川県出身の大先輩である元横綱・輪島の15場所を大きく塗り替える最速記録。また、新三役での初優勝は昭和32年5月場所の安念山(後の関脇・羽黒山)以来、67年ぶりという歴史的快挙でもあった。
5月26日の大相撲夏場所千秋楽は、新小結の大の里が、勝てば大の里に並ぶ関脇・阿炎を立ち合いから圧倒。危なげない強烈な押し出しで、成績を12勝3敗として幕内初優勝を決めた。
夏場所は序盤こそ先手を取られる相撲で、何とかしのいで逆転するパターンが多かったが、後半戦は自ら攻めて圧倒する取り口が増え、初優勝までばく進した。その大の里について、NHKの実況アナが「どこが良くなったのか」と聞くと、解説の舞の海は「学生時代からこれぐらい強かったんじゃないでしょうか」と手放しで絶賛。百戦錬磨のOBたちにも「モノが違う」と思わせるほどの存在感を示したのだった。
同じく、相撲記者も大の里の強さと大物ぶりには舌を巻く。
「先場所(春場所)、新入幕で優勝という離れ業をやってのけた尊富士は前相撲から取っていたので単純な比較はできませんが、尊富士の初土俵から10場所で初優勝という記録もあっさり塗り替えた形になりました。あくまで大の里がこのまま順調なら、年内の大関、来年には横綱、さらには史上最強も十分に狙えるはずです」
記者は「あくまで」と言葉を選ぶ形となったが、実は大の里には大きな懸念材料が1つあるという。
「精神面の成長は必要でしょう。この場所前、昨年9月に部屋の幕下以下の力士が20歳未満と知りながら共に飲酒したとして、二所ノ関親方と厳重注意処分を受けました。しかも単なる飲酒ではなく、大の里が強要したというイジメ、アルハラ(アルコールハラスメント)ではないかという報道もありました。日本体育大学の学生時代から無双していた大物だけに、さもありなんですが、いわばイエローカードを受けた身です。今度、問題を起こせば大関昇進はおろか、レッドカードの裁定が下りる可能性もあります」
初優勝を決めた瞬間、地元の石川県のパブリックビューイングは大歓声に包まれた。震災で苦しむ人たちがまだ多い地元へ「元気」を供給するためにも、土俵上で圧倒する才能だけでなく、角界の模範となれる人格者への成長が期待される今後となりそうだ。
(石見剣)