日本相撲協会は5月29日、夏場所限りで引退した力士を発表。幕下以下の力士12人の引退の発表を行った。
だが12人のうち、何と5人が伊勢ケ浜部屋所属で、しかも4人が元横綱・白鵬が率いた旧宮城野部屋所属だった。
旧宮城野部屋といえば、所属力士だった幕内・北青鵬の暴力問題が今年2月に発覚し、その後、北青鵬は引退。責任を問われた宮城野親方は2階級降格となり、部屋が閉鎖される事態となった。
親方以下の所属力士やスタッフは伊勢ケ浜部屋に移籍となったものの、旧宮城野部屋には宮城野親方自身がスカウトし、親方を慕って入門してきた若手力士が多かったのが事実。「もし宮城野親方の指導を受けられないなら相撲を辞める」という声が少なくなかったが、今回はそれが悪い意味で現実となったわけだ。相撲記者が顔をしかめる。
「大の里の優勝で幕を閉じた夏場所では、初日から10名の旧宮城野部屋所属の力士が休場していました。以前からのケガで休場が続いていた炎鵬や川副(元十両・輝鵬)はいましたが、それでもこの人数は尋常ではない。ケガ以外で休場の力士は引退するのではないかとファンの間で物議を醸していました。案の定、幕下の宝香鵬、三段目の大谷と千鵬、序二段の竹丸と、4人の旧宮城野部屋所属力士の引退が発表されましたが、ベテランの宝香鵬以外の3人はまだ20代です。これからの力士が志半ばで相撲界を去ってしまうのは、残念としか言いようがない」
3月の春場所では、今回引退する大谷は三段目での7番を取り終えた後、「僕は宮城野部屋に入ったので、部屋の移動はあまり乗り気ではない」と率直な心境を吐露。ベテランの宝香鵬は「みんな苦しんでいます。若い力士が苦しまなければいけないのは悔しい」と語っていた。さらに、宝香鵬は「(宮城野親方は)私みたいな下の力士でも励ましてくれる優しい師匠。親方のお人柄を批判するような記事を見ると悲しい気持ちになります」とうなだれ、メディアの報道のあり方に疑問を呈していた。前出の相撲記者が話す。
「北青鵬の暴力は悪質で許されるものではなかったし、宮城野親方への処分も仕方ない。とはいえ、真面目に稽古に励む部屋の若手力士には落ち度はありません。もう少し、彼らの将来を考えることはできなかったのかという気持ちがあります。夏場所に優勝して順風満帆なのは大の里ですが、昨年起きた彼のアルハラ問題と師匠の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)への処分の軽さを考えると、いまだに『白鵬憎し』が相撲協会には漂っていると言われても仕方ありませんよ」
白鵬の弟子などどうなってもいいと言うなら、何とも後味の悪い引退劇だ。
(石見剣)