テリー 先に10人が辞めてますよね。そうすると厳しさも当然ありますよね。
晴の輔 一番弟子のツラさは、後からわかるんですけど、師匠も初めてなので基準が決まってないんです。
テリー 弟子に対する接し方というか。
晴の輔 はい。やっぱり師匠が白だと言えば、黒も白の世界なんですけど、今日は白だったことが翌日には黒になることがよくあるんです。そういう塩梅みたいなものを教えてくれる兄弟子がいなかったのはツラかったですね。だから、師匠に怒られたり、何か頼まれた時は、どっちに転がっても大丈夫なように受け止めるようにはしてました。
テリー ちょっと話は変わりますけど、僕、林家たい平師匠とすごく親しくさせてもらってるんですね。
晴の輔 はい、ラジオ聴かせていただいてました。
テリー そのたい平師匠が「笑点」をやって一番よかったのは、どこへ行っても枕で「笑点」の話をするとバカ受けなんだよって。エンジンを温める必要もなく、出て行くだけで笑ってくれるようになったって言ってたんですけど、実際そうなんですか。
晴の輔 そこはまだ1カ月なので(編集部注:対談日は5月8日)体感はできてないですね。やっぱり、まだ「自分は誰々の弟子で、こういう修業をしてきて」って、一生懸命自分の説明をしないといけないです。この先は変わってくるかもしれませんが。
テリー 「これ、木久扇さんの羽織じゃないですよ」って言っただけで、多分ウケますよね。
晴の輔 そうなるかもしれませんね。この間「もう座布団1枚だと物足りないですね」ってポロッと言ったら笑いが来たので‥‥変わっていく前兆かもしれません。でも、そこからどうなるか。いずれ、それで勘違いする自分も想像できますので。
テリー 勘違いしてもいいんじゃないですか。
晴の輔 あ、そうですか。
テリー うん。どんどん天狗になってほしいなぁ。
晴の輔 でも、立川流の修業は「血を吐くほど気を遣え」っていうものだったので。とにかく鼻が伸びる以前に、成長しないように、鼻の奥から根こそぎ折られるっていう修業をしてきましたから。
テリー 特に立川流は厳しいって、色々聞きますよね。
晴の輔 修業はプライドの崩壊というところで。自分は何者でもないっていう。古典落語も、新作は自分が創ったものですけど、古典落語は誰かが創ったものを、何人もの落語家が磨いたり、足したり削ったりして、我々はそれをやらせていただいてる、それでご飯を食べさせていただいてるんだっていう思いを忘れたらダメなんだろうなと。それを結構修業で学んだのかなと思いますね。
テリー そういうのって具体的に誰かから言われるんですか。
晴の輔 いえ、誰かが教えてくれるわけじゃなくて、大師匠談志が「よくできてる落語をつまんなくやるって、どういうことだ」って誰かに怒ってるわけです。
テリー ああ、そうか。
晴の輔 「元々よくできてる話をつまんなくやるって、落語に失礼だと思わないのか」っていう誰かへの小言を聞いて、「あ、そういうことか」っていう。師匠から直接受けた指導よりも、運転中に師匠が誰かと電話してる時の一言とか、打ち合わせ中に聞こえてきた一言が、僕は一番学べたかなと思いますね。
ゲスト:立川晴の輔(たてかわ・はれのすけ)1972年、兵庫県生まれ。大学時代は落語研究会に所属。卒業後の1997年、立川志の輔に一番弟子として入門し、「立川志の吉」を拝名。2003年、二ツ目に昇進、2013年真打昇進。志の吉から「晴の輔」に改名。古典落語をわかりやすく演じると定評があり、全国各地での落語会、ビジネス落語講演会、子ども落語会をはじめ、結婚式の司会など幅広く活動。2013年より「笑点 特大号」(BS 日テレ)の若手大喜利のメンバーに。2024年4月7日放送の「笑点」(日本テレビ)より大喜利の新メンバーに抜擢され、注目を集める。