本連載では5月31日公開の第1回から連続6回にわたって、ロシアの独裁者プーチンをめぐる「死亡説」と「影武者説」を追ってきた。最終回にあたる今回は〈番外編〉として、ロシア諜報網の深い闇に迫りたい。
本連載で幾度となく指摘してきたように、「昨年10月、プーチンは秘密の別荘で急死していた」に極まる衝撃情報の発信元は、主として2つある。
ひとつはSVR(ロシア対外情報庁)の元上級幹部らが運営しているとされるテレグラムチャンネル「ゼネラルSVR(SVR将軍)」。もうひとつは、クレムリン(ロシア大統領府)の一部中枢勢力と太いパイプを持つとされる政治学者ワレリー・ソロヴェイ氏である。
ただ、一連の情報戦には「ある疑問」が投げかけられている。
プーチン政権はアレクセイ・ナワリヌイ氏をはじめとする反政権分子を、厳しく「粛清」してきた。にもかかわらず、独裁者プーチンに対するネガティブ情報を執拗に流し続けているソロヴェイ氏らはなぜ粛清されないのか、という疑問である。
そんな中、西側諜報筋で囁かれているのが「クレムリン関与説」だ。具体的には以下のような舞台裏が取り沙汰されている。
●クレムリン(プーチン亡き後のロシアを牛耳っている、パトルシェフ大統領補佐官ら)と反政権勢力(ソロヴェイ氏ら)は裏でつながっている
●パトルシェフらは反政権勢力の情報活動を容認、あるいは利用することによって、集団指導体制下の権力掌握に成功したことを内外に伝えようとしている
●パトルシェフらによる諜報活動には、プーチン亡き後の新たな権力の座を虎視眈々と狙う、クレムリン内の敵対勢力に対する牽制の意味もある
だとすれば、世界を駆け巡ったプーチンの死亡説も影武者説も、クレムリンの一部中枢勢力によるリークだったということになる。
ロシア諜報網の闇は限りなく深い。
(石森巌)