こちらのコラムでもたびたび書いていますが、殿は大変な負けず嫌いです。その昔、ベネチア国際映画祭にて、ワーキャーと黄色い歓声が湧き上がる中に現れた“生”ブラッド・ピットを至近距離で目撃しては、
「あいつ、ケンカ弱そうだな」
と漏らし、酒席にて弟子と映画「ロッキー」の話になれば、
「あいつになら、ボクシングで勝てる!」
と、プロボクサーでも何でもないシルベスター・スタローンに、なぜか対抗心をむき出しにしたり──。
とにかく、もう笑うしかない殿のこういった負けず嫌い発言を聞くたびに、わたくしは、〈なんとも大人気ない発言ではあるが、浮き沈みの激しい芸能界で30数年間もトップを張り続けるためには、これぐらいの負けず嫌いでなければ、務まらないんだろうな〉と、弟子の身で大変生意気ではありますが、いたく感心してしまうのも事実なのです。
で、殿の負けず嫌い発言は、基本2つのパターンに分かれます。
まず、先に紹介したような、強い口調で“俺のほうが凄いんだぞ!”と言い切るパターン。もう1つは、小さな声でポツリと、“実は俺も凄いんだよ。知ってた?”といった感じで、なんとも弱々しく、かわいらしくアピールしてくるパターンです。
師匠を捕まえて、“かわいらしい”はないだろうとお思いでしょうが、もうこればっかりは、とにかくかわいらしいのです。
つい先日も、昼に綾小路きみまろさんと対談をされた殿から夜、“昔、無名時代にキャバレーの営業できみまろさんと一緒になった時、その漫談のうまさに驚いた”といった思い出話をテレビのスタッフさんたちと聞いていた時のこと。
殿から、あらかた“きみまろさんの凄さ”について聞き終えたわたくしたちが、「きみまろさんって、昔から凄かったんですね」と、口々に語り、場の空気が一気に“きみまろさん賛美”に傾いた瞬間、殿が真顔で、
「だけど俺も、漫談やらせたら結構うまいんだよ」
と、小さな声でポツリと漏らされたのです。
この時、その場にいた誰もが一瞬、「?」といった顔になり、時間にして1秒ほどの“おかしな間”の静寂が訪れた後、みな一斉に笑いながら、「えー、たけしさんが漫談がうまいのは存じあげてます」といった類のソフトなツッコミがほうぼうから発生しました。
すると、周りのツッコミで、自身の“天然負けず嫌い発言”にハタと気づいた殿は、照れたお顔になると、
「あっそう。知ってた」
と、一度返すと、すぐさま視線をこちらに向け、
「お前どうせまた、今のアサ芸に書くんだろ」
と、真顔と照れた顔が入り混じった表情で、わたくしに告げるのでした。
ご自分で“きみまろさんの凄さ”について語り出しておきながら、途中から“待て待て、俺だって凄いんだぞ”とムクムクと“負けん気”を発生させる殿。最高です。
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!