さる5月26日に開催された「リーグワン」決勝戦は、国立競技場に5万6486人を集め、国内ラグビーリーグ史上1位の観客動員数を記録した。優勝した東芝ブレイブルーパス東京のリーチ・マイケルが「夢のよう」と感激する光景だった。
その勢いのまま、2015年W杯イングランド大会で奇跡を起こしたエディ・ジョーンズがヘッドコーチに再就任した「新生」日本代表は突っ走る…はずだった。が、残念ながらチーム以外のところで、とんでもない暗雲が垂れ込めているという。
なにしろ「日本×イングランド」(6月22日、国立競技場)のチケットが売れていないのだ。忖度なしに言えば「バカ余り」状態だという。ラグビーに詳しいスポーツライターが話す。
「最近の日本代表の国立競技場でのカードは、2022年7月のフランス戦が5万7011人、同年10月のニュージーランド戦は6万5188人と、観客が増える一方だったという印象です。日本ラグビーフットボール協会は、今回の強豪イングランド戦に同じような期待を抱いていたはず。ところがチケット代の問題が、上昇中だったラグビー人気に水を差す可能性が出てきました」
今回、協会はチケット代の値上げに踏み切った。ティア1と呼ばれる強豪との代表戦だからだ。カテゴリー1という最良席のチケット代で言うと、昨年までの1万6000円から1万9000円に値上げされている。ただし、前出のスポーツライターは、失敗はそこではないと話を続ける。
「円安の影響がありますし、チケット代の少々の値上げはファンが許容していたことが、ネットの声からはわかります。ところが、今回から関東圏で行われる代表戦に対して、近年、プロ野球やJリーグでも一部のチームで導入されている『ダイナミックプライシング』を採用しました。ダイナミックプランシングは、簡単に言えば『価格変動制』のことで、発売中に人気のある席は値上がりし、需要のない座席は下がる。また、天候などによっても変動するというシステムです。しかし、今度のラグビー日本代表戦ではこれがとんでもない『買い控え』を生んでしまったのです」
ちなみにイングランド戦は、ラグビーファン会員の先行抽選では1万9000円で買えたカテゴリー1の席が、一般発売の6月11日現在で2万3800円まで値上がりしている。他のカテゴリーでも総じて価格がアップしている状況だ。
「コアなファンは、先行発売ですでに定価で購入しています。しかし、ラグビーは野球やサッカーのようにファン層が広いとは言えません。国立競技場で大観衆を集めるためには、やはりお祭り好きのライト層の購入が不可欠です。それが、どのカテゴリーも定価より数千円も高いとなれば二の足を踏みますし、試合直前で価格が下がるまで待とうとなります。では、直前で価格が下がったら購入するかと言われたら、ライト層は『面倒だ』『予定が入った』となりがちです。残念ながらこのままでは、新生エディージャパンは、観客が半分ぐらいのガラガラの国立競技場での寂しい船出となるかもしれません」(前出・スポーツライター)
ここにきて、ラグビーファンからは「自分でさえ高すぎるから今回はカテゴリーを下げた」「イングランド戦を満員にできないなら協会全員クビ」など、苦言や厳しい声だらけだ。
ちなみに、イングランド戦の翌週29日に秩父宮ラグビー場で行われる「マオリ・オールブラックス戦」も、ダイナミックプランシングで同じく「買い控え」が起こっているという。しかも、この高騰したチケット代がいつの段階で〝ダイナミック〟に値下がりするかは不明のままだ。
少しでも人気を上げなければいけないラグビーで、今回の新システムが取り返しのつかない事態を招かなければいいのだが…。
(飯野さつき)