「悩みの相談事を聞くだけで収入が得られる」と副業サイトに誘い、40代の女性からおよそ40万円を騙し取った疑いで、男女26人が逮捕された。被害者は全国に約8600人おり、19億円以上を詐取したとみられているが、なぜこんなにも多くの人が副業でお金をもらうのではなく、逆に奪われてしまったのか。
逮捕された鈴木一樹容疑者らはSNSに広告を出したり、「副業」といったワードを検索した人たちを、ニセの副業サイト「サポー」に誘い込む。そこで「悩みを聞けば50万円もらえる」などと仕事を持ちかけていた。
副業サイトに登録すると、実際に悩み相談が届けられるが、わずか数回やり取りしただけで、相談者から「報酬を支払いたい」と提案される。ところが報酬を受け取るためには「正規会員への登録が必要」「有料回線の設置が必要」などと、複数回にわたって現金を要求。中には報酬以上の額を振り込んでしまった被害者がいるという。
相談者を装って悩みのメッセージを送っていたのは「打ち子」と呼ばれるサクラで、逮捕された26人のうち21人が担当していた。なお、打ち子もSNSに掲載されていた募集広告を見て応募した人たちで、アルバイト感覚で犯罪に加担してしまったとみて、捜査が進められている。詐欺事件を数多く取材するジャーナリストが言う。
「手口としては『あなたは3億円の高額当選をしたが、◯◯料を支払ってくれないと振り込めない』とメールを送る、当選詐欺と基本的には同じです。ただ、8600人もが騙されてしまった背景には『サンクコスト効果』があったと考えられます」
通常であれば、お金を受け取るのためにこちら側に支払いが発生するのはおかしいと、すぐに気が付く。ところが実際に悩み相談を受けるという仕事を引き受けたことで、その労力を使った分のお金を回収したい、という考えが働く。つまり、既に使ったコストに囚われて、「このままではもったいない」という心理から、合理性のない行動をとってしまうのだ。ジャーナリストが続ける。
「報酬を受けるためには複数回、金銭の要求がなされますが、一度支払ってしまうと、その支払額も回収しなければと思ってしまう。相手の要求がおかしいと感じていても、何度も何度も支払うことになるのです。今回のような副業詐欺は今後、増えていく可能性が高いと思われます」
副業をしているつもりが、逆にお金が減っていく。甘い誘いには一度立ち止まり、仮に騙されていると感じた場合でも、スパッと引き返す勇気が重要なのである。
(小林洋三)