「自民党では『失言防止マニュアル』を作って全議員に配ったという話ですが、あの上から目線の人たちが、すんなり受け入れるとは思えない。残念ですが、実効性はないと思いますね」
知人の政治部記者からそんな話を聞いたのは、2019年春だった。あの桜田義孝五輪担当大臣の辞任が報じられた頃だったと記憶している。
かねてから政治家による、無神経かつ、一体どんな思考を展開すればそんなとんでもない言葉が出てくるんだ、といった失言・放言の類は、枚挙にいとまがない。それにしても、この桜田氏が放った迷言の数々は、群を抜くヒドさだった。
2018年10月に五輪担当大臣に就任するや、11月5日の予算委員会では、東京五輪の関連経費1億7000万円を、どうしたわけか1億5000万円と勘違いし、あげくに「1500円」と何度も言い間違えて大ヒンシュクを買う。
さらに蓮舫議員を「レンポウさん」と呼び続け、ハンカチで汗を拭きながら謝罪する始末。しかも「五輪憲章を読んでいない」「なぜ私が(五輪相に)選ばれたのかわからない」などなど、「それを言っちゃあ、おしまいよ」とツッコミを入れるしかない、突き抜けたトボケっぷりを連発したのである。全国民が口をアングリさせたのは言うまでもない。
むろんこの人物の失言は、この時に始まったものではない。2013年には、放射性物質を含む廃棄物を「人の住めなくなった福島の東電施設に置けばいい」と言い放ち、関係各位から集中砲火を浴びた過去がある。政治部記者がアキレ返って言う。
「桜田氏は二階派でも当選7回のベテランで、待機組というポジションでした。ただ、失言が多いことから、ボスである二階氏は他のポジションは無理だと考え『無難な五輪担当なら…』とゴリ押しした。ところが、そんな二階氏も驚く想定外の早さで化けの皮がはがれてしまい、目も当てられない状況になってしまいました」
しかも困ったことに、この時、桜田氏はサイバーセキュリティー対策大臣も兼務。なのに「パソコンを打ったことは一度もない」と断言し、米ワシントンポストはじめ海外の主要メディアから「日本のサイバーテロ対策は完璧。なぜなら、大臣がパソコンを使っていないから」と揶揄される有様だった。まったくもって、どうしようもない。
そんなこんなで、更迭は時間の問題とみられていた。案の定、翌2019年4月に行われた、さるパーティーの席上で「東日本大震災の復興より、東北選出の自民党議員の方が大事」と、被災地が激怒する暴言を吐いた。コトここに至って、ついに辞表提出に追い込まれたのである。
まさに遅きに失した辞任劇。こんな国会議員の資質以前の人物を、こともあろうに大臣に据えるという永田町の人事慣習には、今さらながらアキレ返るしかない。
(山川敦司)