耳を疑う言葉が飛び出したのは、大臣に就任して3カ月後の2022年11月9日夜だった。同じ岸田派の武井俊輔外務副大臣のパーティーの席でのことだ。
「法務大臣というのは、朝、死刑にハンコを押しまして、それで昼のニュースのトップになるというのは…そういう時だけ、という地味な役職なんです」
葉梨康弘法相は自虐的に自身の仕事を表現しようとしたのだろうが、現役の法務大臣があろうことか、「死刑」をネタに笑いをとろうとしたのだから、開いた口が塞がらない。
東京大学法学部卒の葉梨氏は警視庁の官僚を経て、葉梨信行元衆議院議員の三女と結婚。その後、政界に進出したキャリアの持ち主だ。6期目にして、2022年8月の内閣改造で初入閣を果たしたのだが、残念ながら評判は芳しくなかった。政治部記者いわく、
「岸田文雄首相としても、自分の派閥内から大臣を、との思いがあり、入閣させたわけですが、葉梨氏は警察官僚上がりとあって態度が大きく、気位が高いことはよく知られる話。『死刑ハンコ』発言以外にも『法務大臣になっても金は集まらない』など、以前から問題発言を繰り返していました。記者の間では、いずれ失言で墓穴を掘るだろう、と…」
その気位の高さが出てしまったのか、翌朝に記者から発言を撤回しないのかと問われて、
「全体の真意をしっかりと説明したい」
反響が大きくなったことで、参議院法務委員会で発言を撤回したものの、
「発言の一部を切り取られた」
暗に、報じる側に恣意的な意図があった、と言いたげだ。これが記者団からの批判が集中する事態を招くことに。
そしてトンデモ放言から3日後、事実上の「更迭」となったわけである。葉梨氏からの辞表を受理した岸田氏は、記者団からの「問題発言があった後、なぜ続投させるとし、それが一転、なぜ更迭することになったのか」の問いに対して、事実関係を説明するにとどまり、自身の対応には何ひとつ問題はなかったと強調。またしても任命した責任を無視するいいかげんな姿を、国民に知らしめることになった。
裁判員制度がスタートして、はや15年。ただでさえ無作為に選ばれる市井の人々の時間的・精神的負担が問題視される中で見せられた法務トップの醜態に、国民の怒りは爆発したのだった。
(山川敦司)