年のせいか、苦労人の活躍に触れると涙腺が緩む。阪神を戦力外となり、中日に育成で入団した板山祐太郎の1軍での活躍はうれしい。6月25日の阪神戦(倉敷)では3番に座り、8回には、この日3安打目となる決勝タイムリー。阪神の2軍時代に鳴尾浜で腐らずに練習している姿を見てきただけに、「忘れられない1日になりました」というヒーローインタビューは泣けてきた。
その翌日、甲子園の試合前に激励してきた。「よかったな。ケガせずに頑張りや」と声をかけると、その試合でも2安打を放って、右翼の守備でも強肩でホームタッチアウト。延長12回で1-1の引き分けやったけど、古巣相手に強烈な存在感を見せつけた。甲子園の阪神ファンも「板山ってこんないい選手やったんや」と驚いたと思う。
亜大から2015年のドラフト6位で阪神に入団した30歳。内外野を守れるユーティリティープレーヤーで、シャープな打撃が持ち味だった。だけど毎年、1軍でもチャンスを数試合もらいながら、アピール不足やった。「もっとできるはずの選手やのに」と、歯がゆい思いで見ていた。少ないチャンスで結果を残すのは難しいが、それがプロの世界。昨オフ、クビになった時は不完全燃焼やったと思う。それだけに拾ってくれた中日には感謝の気持ちが強いはず。打席での姿にハングリーさが伝わってくる。1打席も無駄にしないという執念を感じる。
中日のもう一人の元虎戦士、山本泰寛も持ち前のしぶとさを見せている。徹底した右打ちには「俺はこれで生きていくんや」という強い意思がある。こちらは慶大出身で、巨人から阪神にトレードされ、昨オフに戦力外となった。日本一になったチームで、一度も1軍に呼ばれなかった。内野はどこでも守れるし、ベンチに必要な選手やと思う。
今年のセ・リーグはどのチームも抜け出す力がなくて、最後までもつれそう。下位の中日も、頑張れば7月中に首位争いに加われる位置にいる。7月3日には鳴尾浜の阪神・中日戦をのぞいてきた。中日には2軍にもはい上がろうと汗をかいている選手がいた。元ソフトバンクの上林誠知と、元オリックスの後藤駿太。上林は6月26日に2軍戦でサイクル安打を達成したが、コーチに聞くと「いい時と悪い時の差が大きい」という。駿太の方は上に行ける準備ができているが、順番待ちの状態。チームは貧打に苦しんでいるが意外と外野の層は厚い。去年までのレギュラー、岡林や大島がスタメンで出られないほどやから。
クビになる選手とレギュラーの差なんて、どのチームでもほんのわずか。阪神の島田海吏がいい例だ。不調の近本に代わって、6月27、29日に「1番・中堅」で起用され、2試合連続のマルチ安打を放った。17年のドラフト4位で、同じタイプの18年のドラフト1位の近本の陰に隠れてきた。
僕はもともと、総合力では島田の方が上かもしれないと思い続けていた。近本はセンターでゴールデン・グラブ賞を受賞しているが、守備はそこまで上手ではないし、肩の強さは島田が数段上。阪神では珍しく速い球に強いので、使い続けたら成績を残すはず。このあたりは運としかいいようがない。近本だけでなく、佐藤輝や森下のドラ1の加入でも割を食った。必死のパッチのプレーを応援したくなる選手やけどね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。