よりにもよってセ・パ交流戦協賛企業の元社員が犯人とは…。
巨人選手の個人情報をインターネット上に流出させた上に「死刑にする」などと書き込み、球団の業務を妨害したとして、警視庁は7月9日、世田谷区の元日本生命社員を威力業務妨害容疑で逮捕した。
容疑者の元勤務先名を当初、他局が伏せていたのに対し、読売新聞社と日本テレビが独自取材で日本生命といち早く報道したことから、巨人軍の怒りが伝わってくる。「生命保険業界のガリバー」と称される日本生命は、セ・パ交流戦の協賛企業であり、元巨人の仁志敏久、元中日の福留孝介などドラフト上位の選手をプロ野球界に送り込んできた、社会人野球の名門でもある。7月19日から東京ドームで始まる都市対抗野球にも出場予定だ。
プロ野球選手にとって、生命保険契約はサラリーマン以上に重要な意味を持つ。年俸が総じて高く所得税が高いわりに、活躍できる期間はサラリーマンの勤続年数と比べて短い。だから節税対策と引退後の生活資金、老後の生活資金を増やすため、フィナンシャルプランナーと相談の上、生命保険会社が扱う保険商品のほか、確定拠出年金のiDeCoや個人年金、NISAといった金融商品など、複数かつかなり高額な契約を結ぶのが一般的だ。
プロ野球選手の契約を担当する社員は、おのずと営業成績優秀者として社内表彰の機会が増える。まさかそれが容疑者の妬みや逆恨みを買い、個人情報漏洩と脅迫の動機ではないだろうが…。
どういう理由であれ、自宅住所をネットで拡散され、殺害予告を受けた選手本人と家族は、生きた心地がしなかっただろう。巨人軍広報は容疑者が逮捕されたことを受けて、声明を出した。
「執拗なネット上の投稿により、対象とされた選手はプレーに専念することが妨げられました。重大かつ深刻な事案であり、球団としてもプロ野球界全体としても、このようなことが二度と起きないよう全力で取り組まなければならないと考えています」
これで思い出されるのが「大谷翔平の自宅を放送した」日本テレビとフジテレビの行状だ。
個人情報の拡散の場がネット上と公共の電波という違いだけで、日本テレビとフジテレビがドジャースの大谷翔平選手にしたことと、元ニッセイレディーの犯行は何が違うのか。
両局は報道番組で大谷夫妻の新居を公開。案の定、観光客や見物客が訪れる事態になった。日本国内での自宅住所漏洩、殺害予告だけでも十分に恐ろしいが、大谷夫妻が生活するのは銃社会のアメリカだ。史上最高の契約金を手にした大谷夫妻は、世界中の犯罪者から自宅を襲撃されるリスクに晒されることになった。むしろ元ニッセイレディーの犯行よりタチが悪くはないか。
大谷選手にまだ謝罪していない日本テレビは、個人情報を拡散された巨人選手を被害者として報じる前に、やることがあるのでは。
(那須優子)