子供たちの悪ふざけが、十数台の救急車を呼ぶ大騒ぎになってしまった。
7月16日午後1時頃、東京都立六郷工科高校(大田区)から「辛いお菓子を食べた生徒が体調不良になった」と119番通報があり、同校の生徒14人が病院に搬送された。
生徒たちが食べていたのは、1年生の男子生徒が自宅から持ってきたとみられる「18禁カレーチップス」。辛味成分として、世界一辛い唐辛子「ブート・ジョロキア」が使われており、その辛味はタバスコの200倍。ブートジョロキアが登場するまで最も辛い唐辛子と言われたハバネロと比べても、4倍ほどの辛味である。
過去にはアメリカのフードファイターがブート・ジョロキアを食べた後に食道破裂を起こし、胃に直径3センチの穴が開いたと報告されている。同じくアメリカでは昨年9月、ブート・ジョロキアに含まれる辛味成分カプサイシンの過剰摂取後に、14歳の少年が心臓麻痺を起こして亡くなった。
問題のチップスのパッケージには、18歳以下の人、高血圧などの持病がある人、胃腸が弱い人、体調不良の人などは食べないよう注意書きがあるが、YouTubeでインフルエンサーが試食したり、TikTokには激辛チャレンジ動画が投稿されている。アメリカで死亡した少年も、SNS上の激辛チャレンジの果ての心臓麻痺だった。
こんな危険なスナックは、通販や量販店などで誰でも購入できる。好奇心旺盛な子供たちには、食べるなと言うだけヤボというものだろう。
今回の騒動を機に「18禁チップス」の認知度が高まった結果、集団イジメで激辛チップスの強要など、インドでは武器としても使われるというブート・ジョロキアの粉が悪用されるおそれがある。「18禁チップス」の販売元は今回の騒動で謝罪文を発表したが、健康被害が出ることがわかっていながら、食べ物をオモチャにする激辛商品に賛否両論が出るのは当然だろう。
都内の救急隊員にも迷惑をかけた、人騒がせな高校生たちはコレに反省して、激辛フードを封印した方がいい。なぜなら高濃度のカプサイシンには「発ガン性」があると、激辛料理の本場、韓国の研究者たちが注意喚起をしているからだ。
カプサイシンは「ガンを防ぐ」とそれまで信じられてきたが、今から10年前、ソウル峨山病院のキム・ホンシク教授の研究グループは「高濃度のカプサイシンは免疫細胞の活動を妨害し、ガン発生の危険性を高める」と指摘した。
キム教授らが濃度の異なるカプサイシンを人の免疫細胞、ナチュラルキラー細胞に投与したところ、高濃度のカプサイシンを投与された免疫細胞の活動量が30%以上も落ちたという。過度な辛味成分は体内の免疫細胞の活動を妨げ、胃ガンや白血病のガン細胞を活性化させるという研究結果が出た。
美食の都フランスでも、高濃度のカプサイシンには発ガン性があると、唐辛子は健康を害する食品にリストアップされている。激辛料理を食べるメキシコやインドでも、辛い料理を食べる頻度の高い人ほど、大腸ガンのリスクが上昇するという比較研究結果が出ている。
これから猛暑本番、適度な辛味は食欲を増進させるが、激辛料理をせっせと食べても何もいいことはない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)