大臣就任からたった9日で「超高速アウト」を言い渡された閣僚がいる。それが野田佳彦政権発足で経済産業相に抜擢された鉢呂吉雄氏だった。鉢呂氏は北海道出身。地元の農協職員を経て、社会党議員として政治の世界に身を置くことになったのだが、
「前任である経産相の海江田万里氏が国会答弁で涙ぐんだり、民主党代表選に立候補するや、これまでの発言を翻してTPP慎重論に転向するなど、経産省は困惑するばかりでした。鉢呂氏もTTP等の通商政策やエネルギー政策で経産省と一部意見の食い違いはあったものの、それでも海江田氏よりはマシだろう、という声が多かった。そんな矢先の更迭に、省内からは『やっぱりこの人もダメだったか』の声が続出しました」(政治部記者)
コトの起こりは2011年9月8日。鉢呂氏は野田首相とともに、福島第一原発と周辺の警戒地域を視察して回った。ところが翌日の記者会見で、あろうことか、これらの地域を「まさに死の町」と表現したのだ。
野田首相もこの発言は看過できず、
「不穏当な発言。謝罪して訂正してほしい」
と要求。焦りまくった鉢呂氏は同日午後に釈明会見を開き、謝罪したのだが、コトが収まることはなかった。
なんとこの日の夕方、フジテレビが仰天のニュースを伝えたのだ。福島から帰京した鉢呂氏が、着用していた防護服を記者に擦り付けるような仕草で「放射能をつけちゃうぞ」といった旨の発言をしていた、というのである。
とはいえ、発言があったとされるのは9月8日夜。なぜ9日の朝刊各紙は沈黙していたのか。
前出の政治部記者によれば、8日夜、議員宿舎には10人ほどの記者が大臣の帰宅を待っており、最も近くにいた記者に鉢呂氏が防護服の袖をつけながら冗談交じりに語ったというのだが、
「基本的に宿舎内での囲み取材は、オフレコが原則。ところがこの時、別件で別の政治家を待っていたフジテレビの記者がたまたま、この光景を目にしてしまった。それを上に報告したところ『いくらなんでも非常識すぎる』となり、翌日の放送に踏み切ったと聞いています」
この報道を受けて、鉢呂氏は次のように弁明。
「記者に触れたかもしれないが、そのようなことは発言していないと思う」
しかし、コトがコトだけに、事実だとすれば謝って済む問題ではない。当然ながら野党からは鉢呂氏の辞任要求と、ここぞとばかりに首相の任命責任を問う声が噴出。そして9月10日夜、鉢呂氏のクビが決定したというわけである。
鉢呂氏は人気漫談家の綾小路きみまろ似であることから、大臣就任後には「経産省のきみまろ」と呼ばれ始めていたというが、まさか本家きみまろでも言えない、超ド級な毒舌失言を放つとは…。野田内閣の波乱の船出を物語る更迭劇だったのである。
(山川敦司)